大店の婚礼話には事件がつきもの — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 26 恋しるこ」(時代小説文庫)

さて、今回の料理人季蔵シリーズの収録は
第一話 師走魚
第二話 兄弟海苔
第三話 新年薬膳雑煮
第四話 恋しるこ
となっていて、どちらかというとそれぞれが独立した単話仕立て。
まず、第一話は、両替屋・千田屋の法要料理を塩梅屋が務めることになったのが発端。ただ塩梅屋のような一膳飯屋の進化系のような店が選ばれたのは、「生鮭をつかった尽くし料理」という、およそ仏事とは思えない注文である。
その原因は、千田屋を仕切っている、隠居している祖母の「梅乃」にあって、彼女が婿を以前虐めて事故死させたことが素で、鮭フリークになったことのあるおとがわかる。季蔵が、口うるさい隠居婆さんを満足させるため、試作を行っている最中、高価な珊瑚の簪が届く。千田屋の孫娘・千恵の婚礼祝らしいのだが、さて、送り主は、といったところで今巻の事件の幕開け。
 
千田屋の孫娘・千恵が、死んだはずの自分の父親からプレゼントだ、と主張するので、珊瑚の贈り主を探しを始め、代書屋の勇吉という男に行き当たるが、彼は、女誑しの「ごろつきの芳三」殺しの犯人としてしょっぴかれるところを、季蔵が、間一髪、真犯人を見つけ出す、というのが第一話の展開。
第二話は第一話の「芳三殺し」で、勇吉の無実を晴らしてくれと、季蔵に頼んだ、「五吉」の十数年前の母親殺しの再捜査。ここに、海苔屋・浅草屋の15年前の大店の神隠しが絡むのだが、これは次話以降へのつなぎであろう。
さて、引き続く第三話では、同じ婿取り話として、薬種問屋の鈴鹿屋の婚礼に関連する事件。
鈴鹿屋の跡継ぎとして養女の入る姪の「さつき」のところに「殺人予告」の手紙が入るのが発端なのだが、この家の場合、昔の奉公人の孫娘というふれこみの「奈美」という娘が、あっけらかんとした明るい美人娘で、婿になる予定の医家の三男坊の長岡仁太郎とくっついてしまったどころか、店の実権をもつ「お世津」のお気に入りでもある、という複雑な人間関係である。
こういうときに起きる事件は、お決まりで、女主人の「お世津」殺しなのだが、ついでに奈美も巻き込まれる。あっけらかんとした「天然」の美女に「冷たい」のは、このシリーズの特徴であることを、ここでも立証してますね。
最後の第四話は、この時代、島送りの次の悪名の高い「寄せ場」で白骨死体と抜け穴がでてきたというところから事件は始まる。その陰に、15年前の、天女と呼ばれたお汁粉屋の小町娘と、男前の火消しの恋話がありそうな、というところで話は展開するのだが、ひさびさに想いあう男女に優しい幕切れではありますね。
さて、今巻では、江戸の巨悪が登場せず、色欲、金欲にかられた小悪党の退治が主であるのだが、犯行の原因が欲まみれであると、なんとなく事件も脂ぎって、ベタつくのであるが、これも浮世の常なんでしょうかね。
最後に、今巻での特筆料理は、各話の表題とは異なる「塩梅屋の風呂ふき大根」。「林巻大風呂吹大根」というもので
練り味噌は鍋に赤味噌m白味噌を入れて混ぜ、味醂、酒、すった白胡麻を加えて火にかけてどろりとさせておく。
大根は、爪の先ほどの厚さに桂剥きした大根に酒を振り、それをゆるめに蒔き直しぐるりと糸で結び、強火の蒸籠で蒸し上げる。
器に練り味噌を敷き、糸を外して大根を盛り付ける。柚子の皮または練り辛子で風味と彩りを添える
という凝ったもの。今巻の鮭とか汁粉がどうも当方の気を惹かなかったので、塩梅屋定番の料理の紹介としておきました。

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