「しずく」の店主は”ジビエ”にはまってしまった ー 友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 今日を迎えるためのポタージュ」(宝島社文庫)

東京のビジネス街の4階建てのビルの一階で営業していて、朝のモーニングのスープからディナーの料理まで、料理の旨さと、謎解きを楽しめる「スープ屋 しずく」シリーズの第2巻目。
 

【収録は】

 
第一話 モーニングタイム
第二話 シチューのひと
第三話 山奥ガール
第四話 レンチェの秘密
エピローグ
 
となっていて、今巻は前巻で話の中心として舞台の中心で踊っていた「理恵」や「伊予」といったメンバーがちょっと脇に引いて、新しいキャストをひきたてる役回りにまわてっている。
 
ただ、今回も血なまぐさい事件は起きないし、怪奇色もないので、ホラー嫌いや「いやミス」嫌いや、スプラッターが苦手な向きには、あいかわらずオススメのミステリーである。
 
 
 【あらすじと注目ポイント】
 
第一話の「モーニングタイム」は、第一作の第一話で、理恵たちが「スープ屋しずく」の常連になるきっかけとなった、理恵たちの勤めるタウン雑誌「イルミナ」の編集長・今野布美子の新婚生活に関連した謎解き。布美子は、新興住宅街に新居を構えているのだが、布美子の夫・克夫の妹「環奈」が布美子のスマホを盗み見たりsite,
彼女の素行を調べている、なぜ?・・・、というのが今回の謎。
このほかに、理恵の人事記録が密かに会社の上層部に調べられていることもわかってきて、謎の上塗りをする。
 
今回のキーとなるのはスープではなくて、布美子が隣家からもらったタイム、ローズマリー、レモングラス、セージといったハーブ。この香りが環奈がスマホを盗み見た理由とか、理恵の人事記録の話とかのをすっきりと解決します。
 

第二話の「シチューのひと」は、理恵の中学時代の「恋バナ」にまつわる謎。
彼女の「恋バナ」のお相手は、「西山」くんという男の子なのだが、たびたびぼんやりしていることの多い男の子である。
で、理恵たちが中学2年生のときに、学校の林間学校でつくったシチューがプリンのように固まってしまう、ということが起きるのだが、これが今回の謎解き。
 
西山くんは、その後不登校になり、高校も隣県の私立学校に進学して、理恵とは、そこで縁遠くなってしまっていたのだが、中学校の同窓会が久々に開かれ、西山もしゅっせきするということで、あれこれ当時の状況を思い出していうるうちに、この粗チューのプリン化と西山くんの隠していた秘密に行き当たる、という展開。
 
今回は謎解きのキーとなるスープらしいスープはでてこないのが残念。
 
第三話の「山奥ガール」は、理恵の後輩編集者の長谷部伊予と彼女の友人・瑠衣におきる話。瑠衣は心移りが多くて、仕事もコロコロと替わっている女性なのだが。こ「しずく」でジビエ料理出会い、体験狩猟に出かけるところから、今回の謎はスタート。謎の本体は、彼女たちが山へ入っているうちに瑠衣が財布を落としてしまうのだが、落としたと思われるところへ行こうと思うのだが最初、瑠衣が向かったときはたどり着けず、伊予が向かったときは簡単に着けて、財布も簡単に見つかったしまう、という「山の怪」。
 
今回の謎解きのキーと「スープ」は「山芋のすり流し」で
 
木の匙を差し入れると、表面で弾力を感じるくらいとろみがあった。すくって口に運ぶと、ぽってりとした完食が舌に感じられる、山芋の上品な甘さが、合わせ出汁と互いに高めあっていた。
(略)
海老の味は控えめだが、華やかさと満足感を与えてくれる。浮き実として山芋のさいの目切りが使われ、シャキシャキとした歯触りが楽しめる。
 
という逸品。ネタバレは「山の怪」は起きたときに、その場所にも「山芋」のつるがあったことなのだが、さてトリックはわかりますか?
 
さらに、今回「ジビエ」が登場し、「しずく」の店主」・麻野がシビエに凝り始めることとなるのだが、次の話の謎解きの大事なキーにもなる。
 
第四話の「レンチェの秘密」は最初は、比留間梓という大学生が主人公で、彼女の同級生で高校生の頃から「引きこもって」いる”忠司”という友人が「引きこもった」理由を、同じく友人の詠人と調べていく話からスタート。途中、梓の早くに亡くなった母親のつくてくれた普通とは違う「ミネストローネ」の話が出てきて、謎解きのキーかと思わせるのだが、これはフェイク。
 
はじめは「スープ屋 しずく」とは何の関係もないよな、と思っているうちに、忠司が、引きこもりになる前に、麻野の亡妻・静句と頻繁に会って何かを相談していたり、「静句」の事故死の原因は自分がつくった、と当時言っていたことがわかり、いっきょに「スープ屋 しずく」が渦の中心になってくる。
 
梓が調べていくうちに、調査を辞めるよう脅す脅迫状が届いたり、麻野の娘・露が、自宅の二階の玄関から突き落とされたりして、凶悪性を帯びてくる。特に露が突き落とされた事件は、梓しか現場の近くにいないときに起きていて、彼女が犯人と疑われるのだが・・・、という展開である。
 
今回注目するスープは、静句が死ぬ少し前に、麻野に依頼したスープの具の「レンズ豆」。静句が事故死した原因の一つを必死に隠そうとする「露」ちゃんがいじらしですね。
 
最後に、エピローグで梓のミネストローネの正体が明らかになって、それは
 
白色の深皿に入ったスープは梓のの汁見た目とはまったく違っていた。肝心のトマトが入っておらず、色が赤くないのだ。眼の前にあるのは、白いミネストローネともいうべきスープだった。
 
というもので、これの秘密は原書で確認してくださいな。
 
【レビュアーから一言】
 
本シリーズの読みどころは、謎解きとその合間合間にでてくるスープの数々のコラボ。話に出てくるスープが、すべて絶品の気配があって、これまでに紹介したもののほかに
 
まず冷たさが金属のスプーン越しに伝わる。舌触りはなめらかで、ざらつきを感じさせない。枝豆の瑞々しい青くささが感じられ、ジャガ芋や香味野菜などの甘さやブイヨンのコクが舌を喜ばせてくれる。味わい豊かな料理を胃に収めると、元気そのものを補っているような気になる
 
という「枝豆のヴィシソワーズ」など各種取り揃えてあるので、そちらもご賞味ください。
 

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