幾多の謎解きは、理恵ちゃんを新しい進路へ導く ー 友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん まだ見ぬ場所のブイヤベース」(宝島社文庫)

シリーズものも冊数を重ねると、登場人物や、彼らを取り巻く環境が、どんどん変化していく時があるもので。これは筆者がそうするというよりも、「物語」や「物語の主人公」が勝手に動き始めることで起きているような気がしてならない。
もちろん、「錯覚」ではあるのだが、話を積み重ねているうちに、作者がシリーズ開始の頃は思ってもみないほうに進んでいってしまうことはありそうで、今巻の最後の話あたりは、「しずく」の店主との恋愛がなかなか進展しない中で、物語自体が「新基軸を求めた」といっても良いような気がする。

【収録は】

第一話 おばけが消えたあとにおやすみ
第二話 野鳥の記憶は水の底に
第三話 まじわれば赤くなる
第四話 大叔父の宝探し
第五話 私の選ぶ白い道
エピローグ

となっていて、第一話と第三話は、「しずく」の店主の娘・露とその同級生、第二話は理恵の部下の「伊予」の友達、第四話は、理恵の従姉妹といったように、探偵役はしずくの店主であることは変わらないものの、メインキャストが当初の登場人物からだんだん周辺に広がっているのは、「新基軸」を欲しがる見えない意思が働いてるような気がする。

【あらすじと注目ポイント】

第一話は、しずくの店主の娘の同級生の「柏夢乃」という女の子が、最近、夜中に目覚めると、身体が動かなくなる「金縛り」に悩まされていて、夜眠るのが怖くて睡眠不足になっているという話の解決。
この女の子の家は、欧風家具の輸入販売をやっているのだが、彼女が金縛りにあったり、睡眠不足になっているのは、彼女の母親が「幽霊に乗り移られ」ていて、商談にも遅れたり、時折、ろれつがまわらなくなるからだ、ということで、謎解きの本命は、この母親の「憑依」差騒動の解決である。

第二話は、理恵の後輩の伊予の友人・皆良田文のジビエ嫌いに関する謎解き。「ジビエ嫌い:とはいいながら、しずくで提供する料理などで、イノシシ肉や鹿肉は大丈夫になったのだが、「鴨肉」だけはダメという特殊なもの。
彼女の祖母は「鳥撃ち」をしていた猟師で、彼女も幼い頃に父母と離れてしばらくの間、祖母と二人きりで暮らしていた期間があったようなのだが、彼女のジビエ・アレルギーはその時の出来事に金しているのだろうか?、というもの。
謎解きのキーは、娘に過干渉する母親なのだが、「鴨」がなぜ関係するかは、カルガモの習性が影響してるようですね。

第三話は、第一話と同じく、露の同級生の「夢乃」ちゃんに関する話。第一話と第二話を読む限り、夢乃ちゃんは結構気の強そうな女の子ですな。
話のほうは、彼女が学校の家庭科の時間に、隣の班の「カレースープ」を突然捨ててしまった、という出来事の謎解き。
謎解きのヒントは「化学反応」で、ターメリックも化学反応して「色」が変わるらしい、ということと、子供は「辛い」のはダメな子供が多いからね、というところ。

第四話は、理恵の大叔父が遺したといわれる「宝探し」の話。ただ、宝を探すのは、理恵ではなくて、従姉妹の奥谷伊咲という大学生の女性。
山師の気があって、事業を起こしては失敗し、親戚中で相手にされなくなっていた大叔父が、自分の家に「宝」を隠してあると言い残して死んでしまう。彼の言によると「お宝は『五千両』」なのだそう。宝が見つからないと、大叔父の家は取り壊されて、更地にして売られることになったいるのだが、さて依咲と理恵は「宝」を見つけることができるのだろうか、というのが謎解きの本体。
謎解きのヒントは、冷蔵庫にしろ、鍋にしろ道具にこだわる、「しずく」の店主・麻野暁は「包丁」にも造詣が深かった、というところでご想像くださいな。

第五話は、理恵と伊予が勤めるタウン情報誌「イルミナ」の身売り話に関する話で、当然、理恵も「職場」がどうなるか、自分の席はどうなるか、と岐路にたつことになる。
謎は、理恵がこれからの進路をあれこれ悩みながら、休日出勤した時に起きた事で、誰もいないはずの職場で、ちょっと席をはずして帰ってくると、柴犬の置物がおいてあったというもの。
謎解きのヒントは、トリック写真というのは、頑張れば誰でもつくれる、ということであろうか。

理恵がイルミナの新職場か、今の会社での配置換えか、あるいは転職か、といった選択肢のうち、どれを選んだかは「エピローグ」で明らかになるのだが、詳細は、原書で確認してくださいな。ある意味では、全く新しい「環境」のもとで、物語が大変身していく予兆なのかもしれない。

もっとも、彼女が選択するきっかけになった「やりたいことがなかった」というところは、当方も含め、多くのビジネスマンが「はっ」とするところでありますな。
当方も、以前ブログで断ったと書いていた再就職話を、結局は引き受けたのだが、その時に、あれこれ悩んだり、先達に相談した時に助言が思い出された。
結局は「人は必要とされる所で咲け」というのが究極の真理かもしれんですね。

【レビュアーから一言】

さて、それぞれの話ででてくる「スープ」は、順番にイチゴのスープ、イノシシ肉とひよこ豆のスープ、学校の調理実習でつくrるカレースープ、春野菜の鰤しゃぶスープ、「ウハー」というロシアの魚介スープとなっているのだが、ここは「理恵」ちゃんの決断と前途を祝して

表面にバターが浮いているけれど、くどさは感じられない。・・・白身魚は鱈のようで、口に入れると身がほどけた。ゼラチン質を多く含んだ皮からは特有の風味が味わえた。
ムール貝をかじるとぎゅっと詰まったエキスが弾け、ミネラルを感じさせる旨味が楽しめた。大きな海老はぷりぷりで、歯切れが心地よく甘みが強い。長ネギやジャガ芋などの野菜も味が濃く、魚介の強い風味に負けていない。
魚介の味がしっかり出ていて、さらにバターの旨味も感じられる。

というブルターニュのブイヤベースとも言われる「コトリアード」というスープを紹介しておしまいとしましょうか。

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