「女衆」から「ご寮さん」へ。サクセス・ストーリーが本格稼働 ー 高田郁「あきない世傅 金と銀 早瀬篇」(時代小説文庫)

大坂の天満を舞台に、老舗の呉服屋「五鈴屋」に女衆として奉公にあがった娘「幸」が商売のイロハを覚えながら、店を大きくしていくサクセスストーリー「あきない世傅」シリーズの第二弾。
前巻では、成長して「女衆」として一人前になり、主人の奥さんでの「菊栄」に可愛がられるようになったのだが、彼女が実家へ帰ってしまうのだが、その結納金を亭主が女遊びに使い込んでいたことが判明し、彼の手綱を握れる女性がどこかにいないものか、と大番頭の治平衛が頭を悩ましたところで終わっていた。
今巻は、菊栄の離縁を発端に、治兵衛や富久が「幸」の隠された才能に気づき、彼女の運命が大きく羽ばたいていくのが描かれる。「浪速の娘」のサクセス・ストーリーがいよいよ本格稼働でありますね。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 ひとつの提案
第二章 初午
第三章 番頭の窮地
第四章 幸の決心
第五章 ご寮さんの誕生
第六章 ご縁日
第七章 波紋
第八章 三兄弟
第九章 肝試し
第十章 鵺
第十一章 誓文払い
第十二章 縁と月日
第十三章 新しい風
第十四章 急転直下

となっていて、第一章から第六章までは、「幸」が治兵衛に見込まれて、四代目徳兵衛の再婚相手となるまで。ただ、その過程で治兵衛が徳兵衛と争って脳卒中をおこして引退を余儀なくされたりという「幸、危うし」の危機はしっかり用意されているので、ここは原hジャラしなはら見守りましょう。「よしっ」と言いたくなるのは、「幸」が後添えとしての適格性を有しているかどうか、呉服仲間から「テスト」されるところで、彼女の大逆転劇にスッキリすること請け合いである。

第七章から第十三章は「幸」の後妻とはいえ、四代目徳兵衛との新婚生活が主な内容。とはいうものの、女好きの徳兵衛としては幼くてションベン臭い小娘の「幸」が気に入るはずもなく、廓通いは治まるわけがない、といった展開。五鈴屋の同じ男子ながら、商才にあふれた次男「惣次」と、女好きの「阿呆ぼん」徳兵衛とが対照的に描かれていますな。

第十三章から第十四章は、「幸」も、そろそろ年頃になってきたので、これは「徳兵衛」が手をつけるあたりかな、と筋立てを予測していたら、もっと意外な展開が待ってました。ひとまずは、「幸」が女狂いの毒牙にかかることはないのだが、それよりもっと大きな嵐がやってきて、という展開。

今巻で印象深いのは、「幸」に後添えに入ってくれ、と大番頭の治兵衛が彼女を説得するところで

「今は戦のない太平の世、とひとは言うけれど、それは違う。今は『商い戦国時代』やて、私は思うてるんだす。」
(略)
「物がさっぱり売れん、難儀な時代だす。生きるかシムカ、商人たちが刀の代わりにそろばんを交える戦国時代だすのや。無策では生き残ることは出来ん。けれど、幸やったら、治を武器にして商いの道を切り開いていけるやろ。お前はんは、戦国武将になれる器だすのや」

と言うあたりで、このシリーズが伝統ある「なにわ商人もの」であることを再認識させてくれるとともに、暴れん坊将軍とかで「いい時代」として描かれる将軍・吉宗の「享保」の時代が意外と不自由で陰気な時代ではなかったのか?、といった疑問をもってしまいますね。

【レビュアーから一言】

一家離散から、天満の老舗呉服屋に奉公にはいり、あっという間に経営側に入って、と「成り上がり」テーマのTVドラマでもここまでの急展開はないぞ、というスピードでのし上がっていくのだが、まあ、「幸」が美人でアイデア溢れる逸材ながら、つけあがらないのがこのシリーズのよいところである。第一巻がイントロ、第二巻は歌い始め、といった感じであるのだが、「幸」がだんだん五鈴屋の雇い人たちの信頼を得ていくところで、次巻以降の大出世につながっていく大事な巻であります。

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