「菓子勝負」を機に女性菓子職人への道を切り拓け ー 篠綾子「菊のきせ綿 江戸菓子舗照月堂2」

父母が殺された上放火、たった一人の兄は行方知れずという不始末で、京都公家に仕える実家が取り潰され、江戸に了然尼のもとにひきとられた少女「なつめ」が菓子職人をめざす物語「江戸菓子舗照月堂」シリーズの第二弾である。

前巻では、前例がないた菓子職人の修行が許されなかったため、子守として照月堂に雇われた「なつめ」であったのだが、職人をめざす気持ちは変わらない。しかし、松月堂には、いい加減な性格で腕も悪いのだが、菓子の名店・氷川屋のもと職人・安吉が雇われてしまい、職人の空席は埋まってしまった。さあ。「なつめ」の夢はかなうのか・・、といった展開が今巻の幕開けである。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 養生なつめ
第二話 黒文字と筒袖
第三話 非時香菓
第四話 菊のきせ綿

の四話。

第一話は、なつめを女中兼子守として雇うことは認めたのだが、女性が菓子職人になることについては、今ひとつ納得していなかった照月堂の現主人・久兵衛の気持ちが少し和らいで、なつめの菓子職人への道にほんのりと光がさしてくる話。そのもととなる菓子は、なつめの蜜漬けではあるのだが、直接の要因は、戸田露寒軒。彼はなつめの身請け人である了然尼の知り合いで、なつめも顔見知りという設定なのだが、こうした文化人たちに顔見知りがいるというあたりは、「なつめ」も「ハイソ」なのだな、と思い知るのだが、ここは小さな娘の菓子職人修行の話と割り切っておこう。

第二話は、照月堂の新米職人・安吉が大事にしていた「黒文字の楊枝」の行方が分からないと大騒ぎするところからスタート。その「楊枝」は安吉が下記職人の道を目指すことになったきっかけをつくったものであるらしいのだが、それを照月堂に雇われる前に勤めていた店に忘れてしまったというのだが、この男のだらしないところも半端ではない。さらにこの忘れ物が、第三話、第四話で照月堂が廃業をかけた「菓子勝負」に巻き込まれる発端となるという疫病神ぶりである。第一巻で、この店の大旦那の市兵衛が、安吉を雇うのは「災い転じて福」という占いの結果を出していたのだが、なにが「福」なのかわからなくなる筋立てである。

第三話、第四話は、この安吉のもとの勤め先、氷川屋から照月堂が菓子づくりの秘訣をスパイしていると疑われるのだが、その仲裁に戸田露寒軒が乗り出すところからスタート。とはいうものの簡単に「和解」というわけにはいかず、重陽の節句に合わせた「菓子勝負」で決着をつけることとなる。この勝負で勝ったほうが、相手の店に「ひとつだけ」要求を出す。この要求には有無をいわず従わなくてはいけない、という安吉から氷川屋の店の秘密をスパイした覚えのない照月堂にはかなり不利な設定なのだが、物語の進行上仕方がないのかな。

まあ、ここのところのキモは、安吉が店を飛び出したため、菓子作りの手伝いをする者が「なつめ」以外にいなくなり、彼女が菓子職人になる道がますます開けてくるというところなのだが、久兵衛が、この菓子勝負の出す菓子にどんなものをが出すか、「菓銘」も含めて考えろと命じるところを見ると、彼も「なつめ」のネーミングの才能と商品開発の才能は認めざるを得なくなっているようですね。
さて、「なつめ」がどんな菓子を考案したか、そして菓子勝負の行方は・・、というところは原書で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

「重陽の節句」というのは、9月9日の「長生きや健康を祝う日」で、陰陽思想では奇数が吉(陽数)とされていて、それが最大になる「9」が重なる日ということで名付けれたようですね。そしてこの重陽の節句の行事に、 9月8日の夜に満開の菊の花の上に真綿を載せて眠り、翌日の早朝に菊の香りと露を含んだ綿で体を拭うことで、不老長寿を願うという「菊の被せ綿」という行事があったようで、今巻の菓子勝負の菓子もこんなところに由縁がありそうですね。
ちなみに「着せ綿」というお菓子は実在しているのですが、「なつめ」の考えた「菊のきせ綿」とはちょっと形状が異なるお菓子でありますね。

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