伊庭八郎は講武所に巣食う攘夷浪士と対決するー岡田屋鉄蔵「無尽」4・5

幕末の四大道場といわれ心形刀流の伊庭道場の宗家の生まれで、新選組の沖田総司と並び立つ、幕府側の凄腕剣士である幕府遊撃隊隊長・伊庭八郎を主人公にした幕臣側の幕末ストーリー『岡田屋鉄蔵「無尽」(少年画報社)』シリーズの第4弾と第5弾。

前巻までで、試衛館の沖田総司と他流試合をして、その腕を認められながらも敗北して、九代目伊庭秀俊の養子となって心形刀流を継承する準備を始めた伊庭八郎。幕府の錬武館への入所も果たしたところで、井伊大老の暗殺など幕末の嵐が、段々と八郎のもとへも吹き寄せ始めてきます。

第4巻 講武所に潜む攘夷浪士の「シンパ」は女郎殺し

第3巻で朝廷の不安や攘夷志士たちの反対活動などを黙殺して、着々と諸外国との開国の調印をすすめる幕府やその動きにさらに反感を強める攘夷派への井伊大老の再弾圧などが描かれていたのですが、とうとうその怒りが沸点に達したのか、水戸脱藩浪士たちによる井伊大老の暗殺、いわゆる桜田門外の変が勃発します。

このテロ活動については様々な意見があるにせよ、これによって幕府の権威が著しく下がり、倒幕運動に一挙に火が点いたのは間違いないようです。このあたりの情勢は、テロ活動に結びつくことはないのでしょうが、2021年の東京オリンピックをめぐる騒動に似通っている気がします。

まあ、そんな情勢はさておき、八郎のほうは、鳥八十で土方歳三から、近藤勇の講武所手伝いの就任要請を受けるべきかどうかの相談や、八郎が以前馴染みになっていた遊女の「野分」が間夫に蹴られて負った怪我がもとで瀕死の状態であることきいての末期の見舞いとかに出かけているのですが、このことが八郎を攘夷騒ぎに巻き込んでいくことになります。

というのも、「野分」に怪我をさせた間夫というのが、講武所の同輩・富長であることを「野分」の妹分の「左近」がつきとめ、吉原内で富長をつかまえ、野分の霊前で謝罪させようとしたのを富長が逆上。左近の顔に瑕をおわせたところに、八郎が割って入るのですが、この富長が攘夷志士と関わりをもっていて、「野分」に貢がせた金を志士の活動資金に提供していた、というのが明らかになります。

攘夷志士といえば、すでに「倒幕」を旗印にかかげる徳川幕府の敵。それに部屋済みとはいえ旗本が資金提供をしたのは大問題、と問題が大きくなるのですが、これには富長だけでなく、講武所指南役の山岡鉄舟など講武所の関係者も多く関わっていそうで・・と展開していきます。

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第5巻 八郎は攘夷浪士の襲撃を防げるか

前巻で「野分」への乱暴だけでなく攘夷志士への資金提供がバレて謹慎させられていた富長は、西国への逃走を図るのですが、仲間のはずの清河八郎たちに刺殺されてしまいます。富長の失言で講武所内での活動が難しくなり、しかも重要な協力者である山岡鉄舟の監視も厳しきなったことから、「おしゃべり」な富長はすでに厄介者になっていたようですね。自分は攘夷活動の重要な役割を担っていると自負していたのに、あっけなく始末された彼も哀れといえば哀れです。

そして、山岡鉄舟が攘夷活動に関わっていることを知った八郎は将来の「山岡との対決」に備えて、試衛館に泊まり込んで、山岡の「鉄砲突き」への対抗技を考え始めます。浪士への対抗ということでやけに協力的な近藤勇と、「突き技」を破る技の考案と聞いて目の色を変える総司の姿が二人の興味の方向性を明らかにしていますね。

この富長の刺殺事件の余波は、それから数日後におきます。馴染みの女郎の「お夕」が見世を辞めて木更津のほうへ引っ越すお別れに、彼女を芝居見物に連れてきたのですが、その帰りに富長の浪士仲間からお夕ともども命を狙われます。どうやら芝居町で連れの女ともども斬って晒し者にしようという魂胆のようで、二人で食事をとっていたところに知らせてくれる人物がいたのが幸いです。

八郎はお夕を連れて茶屋の裏口から抜け出すのですが、それに気付いた浪士たちが待ち構えています。凄腕の剣士とはいえ、自分を殺そうと向かってくる相手と切り合いをするのは初めての八郎なのですが、一旦、剣を抜くと浪士たちの剣の腕では八郎の敵ではありませんね。

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レビュアーの一言ー澤村田之助の芸への狂気が怖い

八郎とお夕への攘夷浪士の襲撃をこっそり知らせ、さらには現場からの脱出を手助けしてくれたのは、当時、名女形で知られた「澤村田之助」です。かれは舞台上での怪我がもとで脱疽を患い、足を切断しながらの義足をつけて長年演技を続けた「芸の鬼」として有名な歌舞伎俳優ですね。北森鴻さんの「狂乱廿四孝」でもその芸にかけた「狂気ぶり」が描かれていました。今巻でも、彼が八郎たちを助けた理由がまさに「芸の鬼」にふさわしい理由でちょっと鳥肌がたつこと間違いなしですね。

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