岡田屋鉄蔵「無尽」6~7=伊庭の小天狗は講武所復帰するが、幕末騒乱への動きが始まる

幕末の四大道場といわれ心形刀流の伊庭道場の宗家の生まれで、新選組の沖田総司と並び立つ、幕府側の凄腕剣士である幕府遊撃隊隊長・伊庭八郎を主人公にした幕臣側の幕末ストーリー『岡田屋鉄蔵「無尽」(少年画報社)』シリーズの第6弾から第7弾。

前巻で清河八郎ら浪士仲間から粛清された富永刺殺事件の余波で、浪士たちから襲われた主人公・伊庭八郎だったのですが、その謹慎も解け、講武所へ復帰しての生活が再開されます。こうした中、浪士組の募集など、幕末の大騒乱へとつながっていく物事が連続して動き始めます。

第6巻 伊庭八郎、講武所復帰。山岡鉄舟との立ち会いは大迫力

久々に講武所へでてきた八郎は、旗本の師弟たちに稽古をつけていくのですが、そこに八郎襲撃を陰で糸を引いていた清河と昵懇の山岡鉄舟が試合を申し込んできます。

山岡が信奉している虎尾の会が主導する攘夷運動をことごとく邪魔をしてきた伊庭八郎ですので、今回、「試合」という名目で合法的に八郎に大怪我や致命傷をおわせるつもりかも、と疑われるところですが、伊庭八郎は躊躇なくこの勝負を受けます。迫力ある立ち会いのアクションシーンが描かれるのですが、山岡の真意がどこにあったかは、相手をした八郎にしかわからないことだったのかもしれません。

そして、山岡鉄舟が講武所を退いた後、安藤老中の襲撃など、江戸市中でも攘夷浪士の不穏な行動は起こされ、これもあってか将軍・家茂の警固を強化するため「奥詰」というお役がつくられ、八郎の義父である九代目伊庭軍兵衛もその役に登用されます。そのお目見えの儀式の際に、八郎も将軍・家茂に拝謁しているのですが、ここで、家茂に「伊庭の小天狗」と呼ばれるなどして彼の幕府への忠誠心は強化されています。

彼が最後まで徳川家に殉じた精神は、こういう形で何度も補強されていったのだろう、と推測できるところですね。

この時期、京都では「寺田屋事件」がおきていて、薩摩藩によって倒幕決起を企てて、寺田屋に終結した薩摩藩士や攘夷浪士が討ち取られたり、処刑されているのですが、江戸には噂は伝わってきても、その動乱の凄さは伝わっておらず、八郎は久々に鳥八十で鎌吉の料理に舌鼓をうっています。

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第7巻 清河の企む「浪士組」に試衛館メンバーは応募し、京都へ

この巻の冒頭では、富永刺殺事件の黒幕で江戸の攘夷浪士の指導者である清河八郎が山岡鉄舟の紹介状をもって伊庭八郎に面会にやってきます。

彼の訪問の趣旨は、京都の攘夷浪士による乱暴狼藉を取り締まるため、腕利きの浪人や旗本・御家人の部屋済みから志願者を募集して「浪士組」を結成し、京都へ派遣する計画があるのだが、そのまとめ役として伊庭八郎をスカウトしたいというものです。

これが、近藤勇たちの新選組の母体となった「浪士組京都派遣計画」なのですが、当然、この時、清河は結成した浪士組を倒幕・攘夷の組織に組み替える彼の真意は隠したままです。

伊庭八郎は、自らが攘夷浪士に襲われた経験があるので、清河の誘いにのることはなかったのですが、彼の弁説の巧みさと人を説得する力には驚いていますね。

この時、伊庭の屋敷内では清河が来訪目的が不明であったため、大変な限界体制を敷いていたようで、八郎を慕う「礼子ちゃん」も薙刀を構えてスタンバっていたようです。

清河八郎の誘いには乗らなかった伊庭八郎だったのですが、この「浪士組」の募集は、伊庭と親しい近藤勇、土方歳三たち試衛館メンバーを巻き込んでいきます。幕臣取り立ての大チャンスととらえる近藤たちは勇んでこの募集に応じることとなります。

ただ、後に京都に到着してから、江戸へ帰還するという清河の大演説にのることなく、京都へ残留することを決意するのは、この時、伊庭八郎が近藤たちに清河の人柄と虎尾の会の情報を教えていたからでは、とこのシリーズでは示唆しています。

清河は組織した浪士組を京都到着の時点で得意の弁舌で浪士たちの心をつかみ、攘夷の兵として組織し直し、江戸へと引き返すのですが、江戸で後に京都で見廻組を率いた佐々木只三郎によって暗殺されてしまいます。この天才アジテーターが暗殺されることなく、幕末を動いていたら、幕末から明治維新の様相もまた別物になっていたかもしれませんが、このシリーズは幕臣の伊庭八郎側から描かれているので、清河は良いイメージでは描かれていませんね。むしろ、龍馬暗殺の主謀者とされて龍馬ファンからは非難される佐々木只三郎のほうが江戸を混乱から守った人物として描かれています。

巻の後半では、横浜の欧米諸国の駐屯地を視察する伊庭八郎たちが描かれています。ラッパによる軍隊指揮やスペンサー銃やヘンリー銃といった最新銃器の威力を調査しています。伊庭八郎というと「剣客」としてのイメージが強いのですが、このあたりは作者のフィクションでしょうか。

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レビュアーの一言

第7巻で伊庭八郎が視察して感心している「軍隊ラッパ」(ビューグル)による軍隊指揮ですが、20世紀初頭まで、世界中の軍隊で「進め」「止まれ」「突撃」「撃ち方始め」「撃ち方止め」といった戦闘指揮に使われていたようですが、音によって敵方に指令が筒抜けになるのと、命令を出している指揮官の位置もわかってしまうため、無線機器の発達などによって徐々に廃れていったようです。

日本には幕末に列強諸国によってもちこまれ、明治になって、日本軍を近代軍隊に再編成していく中で、フランス式のものを最初導入し、その後独自のものへと進化していったようです。今でも自衛隊や警察、消防などの式典行事のときには見ることができますね。

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