西條奈加「せき越えぬ」=「箱根の関」は今日もトラブル続きです

今は温泉と大学駅伝で有名になっている「箱根」には江戸時代は関所が設置されていて、江戸へ出入りする旅人や大名行列を監視していたのは、時代劇ファンであれば常識中の常識でしょう。

その箱根の関所を舞台に、関所の役人に抜擢された一人の若者武士の青春物語を描いているのが本書『西條奈加「せき越えぬ」(新潮文庫)』です

あらすじと注目ポイント

構成は

「せき越えぬ」
「氷目付」
「涼暮れ撫子」
「相撲始末」
「瓦の州」
「関を越える者」

となっていて、まず本巻の主人公の武藤一之介、通称「武一」が、伊豆の韮山代官所へ国境の境界線を協議する日程調整のため使いにだされるところから始まります。武一は、小田原大久保藩の番方で四人扶持の先手組方を務める家の嫡男で、隠居した父に代わって役に就いて半年経過したところのようです。武一の仕える大久保家は禄高十一万三千石の大大名で、老中も務める徳川譜代の名門なのですが、財政難であることは他の大名と同じで、しかも、武藤の家は歴代藩士とはいっても少禄で貧しい武家という設定です。

お役目を継いでから、初めての他国への使者ということでかなり緊張して出かけたのですが、途中で持参した水筒の水を飲み干してしまい、渇きでぶっ倒れそうになったところを、通りすがりの女性に水を分けてもらいなんとか「箱根の関所」の辿り着きます。

ところが、そこで通行手形が濡れて濡れてぐしゃぐしゃになっていると咎められ、ちゃんとした手形に差し替えるよう城下に追い返されてしまい・・という筋立てです。

一旦は自らの失態と反省した武一なのですが、手形の不備を咎められて追い返される旅人が多いことから、そこに関所役人・保山が憂さ晴らしで手形を改ざんし、関越えを妨害していることに気付きます。武一は、関所番をしている足軽の衛吉を仲間にして、その不正の事実を暴こうとして動き始めるので宇すが・・という展開です。

そして保山を御役御免にした、武一と彼の幼馴染の晋輔は御役御免となった役人のかわりに箱根の関で関所番を務めることとなるのですが、江戸防衛の要とされる「箱根関」ではトラブルもその分多くて、武一は関所番の一番の下っ端としてその処理に奔走させられることになります。

例えば、「氷目付」では、小田原城下で押し込み強盗をした犯人が、変装して関所を越えようとするのを防止するのに駆り出されますし、「涼暮れ撫子」では、離縁されて国許送り返されそうになっている武家の妻女が隠している夫への想いに振り回されますし、「相撲始末」では、箱根の関を越える前に産気づき、女の赤ちゃんを産み落とした夫妻を子供の手形なしにどうやって関越えをさせるかの難問に挑むこととなります。

そして、物語の後半での最大の難事は、シーボルト事件に連座して捕まりそうになっている旧友騎山一之介の学問の師を、旧友もろとも「関所破り」をさせるというものです。少しネタバレしておくと、最初の話で武一を助けてくれた女性はこの騎山の師匠の離縁された奥さんだったというおまけがついています。

関所破りが見つかれば、武一本人どころか彼の親兄弟の命や家の存続にも関わってくるのですが、武一がみつけた関所破りの方法は雪深い箱根の山中を越えるというもので・・という展開です。

せき越えぬ
せき越えぬ

レビュアーの一言

本巻の舞台となっている「箱根関」は、江戸時代は、相模国足柄下郡と箱根山、駿河国駿東郡を領する徳川家の譜代大名が封じられている小田原藩が管理運営することが習わしになっていて、この物語では徳川家譜代の名門である大久保家がその任にあたっています。

大久保家は、徳川幕府の草創期である徳川秀忠の時、当主の大久保忠隣が老中として権勢をふるったのですが、本多正信・正純親子との対立で失脚し、その後、孫の代になって再興され、1686年(貞享3年)になって下総桜藩主であった大久保忠朝の時に、やっと故地である小田原に返り咲いています。

上田秀人さんの「百万石の留守居役」シリーズでは、この「大久保忠朝」が悪役となって、本多政元や主人公の瀬能数馬と敵対していますね。

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