フィレンツェへ皇帝軍の迫る中、アルテはガレー船で帰国の途へ=大久保圭「アルテ」16

芸術・文化が花開き、多くの優れた画家が生まれてはいるが、まだまだ女性が自らの才能を思う存分発揮して活躍することが難しかった「ルネサンス」の時代に、貧しい貴族の家を出て、自分の才能を信じ、王宮の宮廷画家を出発点に一流の画家となっていく女性・アルテの奮闘を描く『大久保圭「アルテ」(ゼノンコミックス)』シリーズの第16弾。

前巻までで、カタリーナ王女に助けられてフィレンツェを脱出したアルテが、カスティリャ王国の宮廷画家となって8年間経過し、比較的平和であったイタリアも戦乱の真っ只中に放り込まれています。ここで、アルテが一大決心し、フィレンツェへの帰還を目指します。

あらすじと注目ポイント

構成は

第75話 会いに行きます
第76話 宮廷画家の矜持
第77話 旅立ち
第78話 予感
第79話 海賊

となっていて、まずはフィレンツェでアルテの絵画の師匠・レオのパトロンであったウベルティーノが死の時を迎えているシーンから始まります。この時、フィレンツェはカタリーナ王女の兄・カール五世の皇帝軍に攻撃されようとしています。

ウベルティーノの「この戦には勝てるワケがない。ローマの二の舞だぞ」という言葉を見れば、フランス王と同盟を結んだ教皇クレメンス七世を圧迫するため、ローマが破壊され略奪を受けた「ローマ劫掠」後、フィレンツェからメディチ家が追放され、アルテがフィレンツェを離れる原因となったシルヴィオ枢機卿も亡命。しかし1529年にクレメンス七世とカール五世が和睦し、各都市が降伏する中、抵抗するフィレンツェを包囲する皇帝軍が派遣されようとしている頃と思われます。

アルテを宮廷画家に抜擢したカタリーナ王女はポルトガル王・ジョアン3世と結婚し、四女ベアトリスを妊娠している時ですね。この女性は9人の子供を産んでいるのですが、子供の早世の多かったこの頃、次女マリア・マヌエラと次男ジョアン・マヌエルの2人以外は子供の頃に亡くなっています。夫のジョアン3世は「敬虔王」とも呼ばれた王様で、イエズス会を保護し、カトリックの布教と海外植民地を拡大し、ポルトガルに絶対王政を確立した人です。

このイタリアが戦乱に陥っている時に、通常の状態では詐欺と脱獄の指名手配犯であるため、無傷で帰還することのできないアルテは、フィレンツェ帰還を決意します。このアルテの決心が揺るがないのをみて、カタリーナ王女は、彼女に4人の傭兵の護衛をつけることを条件に帰還を許します。フィレンツェはカール5世軍に包囲された1529年の翌年まで持ちこたえますので、アルテは戦禍の一番厳しい時に帰国するわけですね。

で、フィレンツェ行きはジェノバまで船で行き、そこから陸路という行程のようです。ジェノバまでは、帆船+ガレー船の船団に乗せてもらうのですが、安全のためガレー船に乗ろうと考えている傭兵のリーダー・グイドが、アルテが貴族出身の女性であるため、きれいな衣装の着替えのボロ服を用意したり、ガレー船に乗るのをいやがるなら力ずくで乗船させることを考えたり、とあれこれと心配するのですが、その都度、雑草的な成長をしてきたアルテに裏切られます。

そして、貴族出身の宮廷画家+護衛の傭兵3人という寄せ集めメンバーながら、結束良くジェノバを目指すのですが、途中の小島の周辺で、海賊の高速船フスタに襲撃され・・という展開です。

フスタというのは帆と櫂を動力源とする小型のガレー船で北アフリカやバルバリア海岸を根城とする海賊に、その機動性や速度、風なしでも航行可能なところと獲物を待ち伏せする浅瀬での操作性などの面で愛用された戦船ですね。ポルトガル人はこのフスタによる海賊の襲撃に手を焼いたことで学習したのか、大航海時代にはインドにもこのフスタを持ちこみ、沿岸や浅瀬での戦闘や襲撃に活用したらしいです。

アルテ 16巻 (ゼノンコミックス)
カスティリャ亡命から数年。宮廷画家として最後の仕事を終えたアルテは、生き別&...

レビュアーの一言

アルテを護衛してフィレンツェヘ向かう傭兵のグイドと友人のフランコは、海で傭兵を務め成り上がっていくことを目論んでいるのですが、その二人の会話にでてくる「バルバリーの赤ひげ」(単行本16巻122ページ参照)ことハイレッディン・バルバロッサはその成り上がった典型ですね。

エーゲ海のレスボス島出身といわれ、兄弟でロードス騎士団やヨーロッパの商船への海賊行為で勢力を蓄え、オスマン帝国の皇帝から「ベイレルベイ」という有力者の称号を与えられ、イェニチェリ、ガレー船、大砲を有していました。彼は1538年にオスマン帝国とスペインとで戦われたプレヴェザ海戦の指揮をとり、この海戦に勝利したオスマン帝国は、以後、1571年のレパントの海戦で敗れるまで、地中海のほぼ全域の制海権を勝ち取ることとなります。

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