中世の頃に比べてまだマシではあるものの、女性の活躍するのに、今に比べ格段にアゲインストであったルネサンスの時代。貴族の家に生まれながらも、自分の力で画家になる道を開こうと、世間の荒波に、若い女性が立ち向かっていく物語『大久保圭「アルテ」』の第6弾から第8弾です。
前巻までで、ファリエル家の肖像画家兼家庭教師の依頼をうけてヴェネツィアにやってきたものの、この家のお嬢様・カタリーナの頑なな態度に苦戦していたアルテなのですが、ひょんなことから彼女の幼い頃の秘密を知り、それをきっかけに心の絆を作り上げていきます。そして、ヴェネツィア生活で一皮むけたアルテのフィレンツェ帰還後のランクアップと悩みが描かれます。
【構成と注目ポイント】
第6巻の構成は
第26話 ファリエル家の乳母
第27話 カタリーナの家族
第28話 決意
第29話 帰る場所
特別編 レオさんの一日
となっていて、アルテが礼儀作法の家庭教師をしているカタリーナが、両親に対して心を開かない理由が明らかになっていきます。
この当時、身分の高い貴族や大商人の赤ん坊は、母体への負担を少なくするため、乳母によって授乳され、養育されるのが、このヴェネツィアでも通例であったようですが、カタリーナの場合も母親ソフィアから離され、ファリエル家の料理人の妻を乳母として育てられます。

これに、実の父親がカタリーナが女子で、跡継ぎにならないためかなりのネグレクト状態であったことが輪をかけたようです。カタリーナは通常であれば2、3歳で実家に戻るところを6歳ぐらいまで預けられたままで、しかもその時に、乳母のボーナが流行り病で突然死する、ということで二重・三重の喪失感に襲われてしまった、ということですね。
この事情を知ったアルテは、持ち前の「おせっかい」を最大限に発揮し始めます。カタリーナのわだかまりの一つが、乳母ボーナが突然死する前に、ひどい言葉をかけたことと、

それが原因なのか、ボーナの息子で幼馴染のジモから、

という言葉をかけられたことであることから、今はムラーノ島に住むジモのもとへカタリーナを無理やり連れていき再会させるという荒療治を計画します。
その結果、カタリーナは

という結果を産むのですが、カタリーナとジモの間に何があったのか、そして、彼女がどう変わったか、は原書のほうで。
続く第7巻は
第30話 蜜事①
第31話 蜜事②
第32話 ファリエル家の肖像画家①
第33話 ファリエル家の肖像画家②
第34話 ファリエル家の肖像画家③
第35話 ファリエル家の肖像画家④
となっていて、カタリーナがアルテに心を開いた後、二人の心のつながりが強く結ばれていく様子が描かれます。
その前の30話と31話は、メインディッシュ前のオードブル的なお話で、姪のカタリーナに、ユーリがなぜとことん尽くすのか、というところと、お屋敷内でのアルテの密かなサポーターとなっている小間使のダフネの「暗い影」の理由が明らかになります。

32話から35話は、アルテが頼まれていた本業でもあるソフィアとカタリーナの肖像画もだんだんと仕上がってくるところでの話です。
この当時の肖像画は、その人の姿をありのまま描けばいいというものではなく、今の時代のポートレート、あるいは見合いのお写真みたいなところがあったので、ネックレスととか髪飾りとか、どういう小物をつかって描く人の魅力をアップするか、というのが画家の腕の見せどころです。
アルテはその点は貪欲で、目に映る珍しい景色とか、細工をしてい装飾品などのスケッチを大量に描いているのですが、他の画家工房の見学も熱心にやってます。
今回もヴェネツィアの大きな工房の見学にやってきたのですが、そこで年上らしい工房の職人見習いに、

という羨望の声をかけられます。これに対しアルテは一応笑ってごまかすのですが、それ以来、寝食を忘れて修行に打ち込み始めます。そして、食事もろくにとらずに打ち込むアルテの様子に、心配したカタリーナは・・・、という展開です。
アルテを元気づけるためのカタリーナの健気な企みのほろっときます。そして、出来上がった自分の肖像画を抱えて、彼女は、アルテに「羨ましい」と言った職人見習いに

というのですが、そこにはムラーノ島での幼馴染ジモとの再会で、カタリーナが掴んだある決心が現れています。
第8巻の構成は
第36話 友達
第37話 弟子
第38話 小さな工房①
第39話 小さな工房②
第40話 小さな工房③
となっていて、ヴェネツィアでのファリエル家の肖像画と家庭教師の仕事を無事やりとげたアルテがフィレンツェへ帰還してきます。
カタリーナと心の繋がりもでき、ユーリのヴェネツィアへの残留要請も振り切っての帰還で、カタリーナとの別れのシーンはお涙頂戴の感があるのですが、ファリエル家のお嬢様でもあるので、シリーズのこれからの隠し玉となっていくことを期待しましょう。

そして、ファリエル家での仕事が評判を産み、様々なところからの注文が舞い込み始めます。ただ、当時、見合い写真代わりに使われてもいた肖像画を、修正をガンガンいれて見た目だけ美しく描くのではなく、

と、依頼人の女性の自分でも気付いていない魅力を引き出すようになったのは、ヴェネツィアでの経験が活きているのでしょう。
そして、フィレンツェにいた時と比べると見違えるほど成長したアルテを、レオの小さな工房が受け止めきれるのか・・・というのが第8巻での関心事ですね。
【レビュアーから一言】
女性が自分の意志で活躍していくことがまだまだ認められてはいなかったルネッサンスの時期なのでですが、中にはカタリーナ・スフォルツァのように、自分に反乱を起こした臣下を鎮圧したり、あのチェーザレ・ボルジアに真っ向から勝負したり、といった人物も登場していますし、女性画家が活躍を始めた時代でもありました。
(参照 「ルネサンス期に活躍した9人の女子画家の人生と絵画」ー新・ノラの絵画の時間)本書でも第7巻のカタリーナの

といった様子に、自分の足で歩もうとする女性の意気が感じられます。
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