窓際検事と向こう見ず女性検事の捜査は今回も人情味たっぷり=直島翔「恋する検事はわきまえない」

過去に検察庁内部の派閥対立に巻き込まれた上に、もともと手柄を誇る性格でもないことから、「割り」の名手と言われながらも、任官以来、支部廻りをさせられていて、現在は東京区検浅草支部にいる検事・久我翔平と、はねっかえりでむこうみずが取柄の女性検事・倉沢ひとみ、そして、鹿児島出身で実家の農家を継ぐかどうか悩んでいる、出世運から遠い巡査・有村誠司が、転落死事故に隠された金密輸事件と大物芸能会社の脱税事件にからむ検察不正を暴いた第3回警察小説大賞の受賞作「転がる検事に苔むさず」に続く、窓際検事+はねっかえり検事シリーズの第二作が本書『直島翔「恋する検事はわきまえない」(小学館)』です。

前作の最後のところで、愛娘の法学部進学と法曹志望をしぶしぶ承知した久我と浅草支部での見習い期間も過ぎ、鹿児島地検への赴任がきまった倉沢、実家の農業を継ぐことを止め、警視庁に残った有村だったのですが、今回はそれぞれの後日談と想い出話が語られます。

あらすじと注目ポイント

収録は

「シャベルとスコップ」
「ジャンブルズ」
「恋する検事はわきまえない」
「海と殺意」
「健ちゃんに法はいらない」
「春風」

となっていて、「シャベルとスコップ」と「春風」は鹿児島に赴任する前の倉沢と、この巻の事件終結後の久我の小エピソードになっていて、収録話としては4篇+α2つと言った構成です。

本編第一話の「ジャンブルズ」は鹿児島地検に異動したはねっかえり検事・倉沢ひとみがてがける、鰻のシラス密漁事件です。

赴任後、警察から送致される事件の処理を淡々と行っていた倉沢なのですが、ある時、県庁で開催された内水面漁業に関する会議に、密漁取り締まりの責任者として出席させられます。どうやら地検推薦の委員として任命されていたようなのでしうが、そこで、彼女は鹿児島の国産鰻の稚魚・シラスの密漁が横行していることを知らされ、地検代表者として意見を求められるのですが、そこで持ち前の「むこうみず」な性格から、抜本的な対策を打つ、と公言してしまい、県庁、県警、検察をまきこんだ「大仕事」になっていくのですが・・という筋立てです。

もちろん、突然赴任してきた若い女性検事のスタンドプレーに、反発がまきおこり、支援してくれるのは地元の大手食品加工会社の女性社長と検察事務官ぐらいなのですが、彼女は密漁者が漁場で「オッサン」に指示を仰いでいたという情報から、その「オッサン」の正体をつくとめようとします。そして、鹿児島出身の有村から「鹿児島弁」指導をうけて、推理した犯人はなんと・・という展開で、囮の一斉摘発の罠をしかけて、シラス密漁の黒幕をあぶりだしていきます。

少しネタバレしておくと、彼女の行動に邪魔をしてくる地元男性たち、と思われていた人物たちが、実は彼女の大応援団であることがわかってくるので、そこらもあわせて倉沢検事の活躍をお楽しみください

第二話の「恋する検事はわきまえない」は、日本初の東京地検特捜部に配属された女性検事として勇名をはせ、久我をかつて特捜本部に推薦した張本人で、現在は検察に対抗する大手弁護士事務所を率いる「常盤春子」が若かりし頃、特捜検事当時てがけた大事件の顛末です。

それは、大手建設会社五社が共謀した談合事件だったのですが、各社の調整役の「幹事」として公取委が送致してきたのが、いずれも係長クラスの社員であったことに常盤が疑問をいだくところから始まります。

彼女は五人の容疑者の中でも、一番経験の短い若い社員に狙いを定め、真相を聞き出すとするのですが、会社の強い指示があるせいかいっこうに口を割りません。拘留期間も経過し、公取委の調査結果に従って、五人の社員を談合の首謀者として起訴するよう、検察上層部の圧力がかかる中、「その若手社員は無実だ」と特捜部にねじこんできた、築地市場に勤める幼馴染の情報から、常盤が手繰り出した真相は・・ということで、官民をあげての大談合事件の摘発につながっていきます。

このほか、久我が小倉支部在任当時、盛り場でおきた酔っ払い同士の喧嘩による障害致死事件の真相を、これが暴力団の縄張り争いだと盲信する若手刑事の主張につきあって解き明かしていく「海と殺意」や、警視庁にとどまった有村が、幼稚園での園児の虐待事件に容疑から、園児の実家を巻き込んだ、「グルメサイト」詐欺を、常盤春子弁護士の夫とともにつきとめていく「健ちゃんに法はいらない」など、第一作に劣らない、人情検事ものが展開されていきます。

レビュアーの一言

倉沢が鹿児島へ赴任した後、実質的には浅草分室でたった一人の検察官となった久我だったのですが、巻の最後のところで、過去に彼を特捜本部への抜擢話を潰した因縁の上司・福地特捜部長から、臨時に特捜検事として招聘するという電話が入ります。福地のライバルで、常盤弁護士によって久我の師匠格とされている里原東京高検検事長の検事総長就任間近の人事の季節でもあり、なにやら次巻での大波乱が予測される最終エピソードです。

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