バリスタは天然系女子の企画するコーヒーイベントのトラブルを解決する=「珈琲店タレーランの事件簿8 願いをかなえるマキアート」

京都市内の中京区、二条通と富小路通が交差するあたりにあるレトロな電気看板のあたり。家屋の双子のように並ぶ軒を通り抜けたところにある尖った屋根と、赤茶けた板壁に絡む蔦、というレトロな風情の喫茶店「珈琲店タレーラン」の若き女性店主で腕利きのバリスタ・切間美星と、彼女の入れる珈琲に魅了されて、店員兼恋人となった元フリーター・青野大和、通称「アオヤマ」くんが、京都市中でおきる事件の謎を解いていく、ご当地コージー・ミステリー「珈琲店タレーラン」シリーズの第8弾は本書『岡崎琢磨「珈琲店タレーランの事件簿8 願いをかなえるマキアート」(宝島社文庫)』です。

前巻まで、心筋梗塞で入院して気弱になったタレーランの店主・藻川又次が抱えていた亡き妻への不倫疑惑を晴らし、彼を復活させるとともに、その捜査の過程で美星とアオヤマの菜かも急接近したのですが、今回参加した「京都コーヒーフェスティバル」で起きる営業妨害事件の謎解きの過程で、再び暗雲が漂っていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ 恋人たちのメッセージ
第一章 祭りへの誘い
第二章 祭りの始まり
第三章 祭りは崩壊する
第四章 祭りからの逃走
第五章 祭りを穢すもの
エピローグ 祀りのあとで

となっていて、最初のプロローグのところで、ハンドルネームが「茨」と「マイカ」という二人のSNSのやりとりがでてきます。仕事を優先するため、別れたいという「茨」に対し、不承不承納得する「マイカ」なのですが、これが誰と誰のやりとりなのかは、このシリーズの読者であれば想像できるかと思うのですが、これが後半部分での美星とアオヤマの恋人関係の行方のヒントになるので覚えておきましょう。

で、本編のほうは、第3巻の事件の舞台となった「第5回関西バリスタコンペティション」でトラブルの元凶となった、マジシャンあがりのバリスタ・石井春夫が、京都市内にある新興イベント会社「サクラチル」の社員・中田朝子を連れてタレーランに訪れるところから始まります。

「サクラチル」という社名自体もなんだかなー、というところなのですが、この中田朝子という女性、アポなしで店にやってきてイベントの誘いを始めるなど、相当の「天然系」の女性で、今まで、大学受験とか就職とか、大きな人生イベントは、神社に絵馬を捧げることで希望をかなえてきたという「神頼み系」の女子でもあるようです。

その彼女が持ち込んできたのが、同じ年の春頃に開催されて高評価をとった「第一回京都珈琲店商店街」という有名どころの珈琲店が出店を出し、腕を競うというイベントの「二番煎じ」あるいは「パクリ」ともいえる「第一回京都コーヒーフェスティバル」というイベントで、これに「タレーラン」の出店をお願いしにきた、というもの。

「パクリ」イベントに参加するのもどうかなー、と案じるアオヤアくんだったのですが、出店してくれる珈琲店が少なくて苦労しているらしい中田の様子と、タレーランを推進したのが、あのトラブルメーカーの「石井」で、またこのイベントを出汁にして良からぬことを企んでいるのでは、と心配した「美星」は彼の悪だくみを事前に抑えるために参加をきめるのですが・・という筋立てです。

イベントに参加したのは、「タレーラン」のほかに石井春夫が営むサイフォンコーヒーが売り物の「イシ・コーヒー」、ペーパードリップで、ブラジル・ブルボンの深煎りとケニア産の浅煎りのシングルオリジンで勝負する「椿カフェ」、熟年のベテラン夫婦が営む老舗「太陽珈琲」、アオヤマの元修行先で、京都の有名店「ロックオン・カフェ」、4つの種類のミルクが選べるカフェオレで売り出し中の「モンキーズカフェ」といった、新興・老舗・人気ナンバーワンを取り揃えたラインナップです。

このラインナップで人気ナンバーワンをとれば、その後の売れ行きも相当期待できるだろうと想定される中、トラブルが次々とおきます。

まず第一番目の被害にあったのは「太陽珈琲」で、店で使っているドリップの紙フィルターに切り込みが入れられているのが見つかります。相当数の枚数が被害にあったため、新しいフィルターを手配するまでイベントで珈琲が出せなくなってしまいます。

そして第二の事件の標的はタレーランです。タレーランでまとめてドリップしておいたコーヒーの中に「苦み成分」の入ったものが混入されていたようで、イベントの応援にやってきていたタレーランの馴染み客の一人が異常を感じて教えてくれます。

そして、三番目の事件では、カフェオレにいれるミルクジャグの中に焼け石が入れられていて、それを触ったモンキーズカフェの女性店員が火傷をおってしまいます。

人的な被害も出、イベントの進行にも影響が出始めたため、参加者たちで犯人さがしを始めるのですが、容疑者となったのは、以前のカフェイベントで前科のある石井ではなく、アオヤマくん。彼はタレーランが被害にあった前日の夜、イベントで知り合った女性参加者を連れてタレーランに立ち寄っていたことから、彼の自作自演が疑われることになります。

アオヤマくんにかかった嫌疑を晴らしきれないまま、彼をタレーランを馘にし、イベント会場からも出禁にした美星バリスタが導きだした犯人は?という展開です。

事件の謎解きとあわせて、美星バリスタとアオヤくんの恋の行方にも波乱万丈がありますので、詳しくは原書のほうでどうぞ。

レビュアーの一言

本書の中でも、京都市のコーヒー消費量やパンの消費量が日本一であることが紹介されているので調べてきました。

1世帯当たりのコーヒー消費量は全国平均が年間2,241gに対し、京都市は3,350gと100gも多く、購入額もほぼ1.5倍となっています。

もともと人口10万人あたりの大学数が全国最多の「学生の街」のため、大学の教員や学生がカフェに屯してコーヒーを飲む文化が根付き安かったのでは、という説があるそうですが真偽の程は不明です。

ちなみに、京都市のパン消費量は61,545gで全国平均の1.4倍だそうです。

「伝統と格式」の面が強調される京都なのですが、もともとは1千年にわたる「日本の首都」。西洋文化の導入にも積極的であったのも当然かもしれません。

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