将棋の世界に生息する「棋士」たちのリアルが興味深い=羽海野チカ「3月のライオン」8~9

両親と妹を交通事故で失い、プロ棋士に家に引き取られ、孤独を抱えながら成長し、中学生でプロ棋士となった少年「桐山零」を主人公に、彼が下町でもんじゃ焼き屋を経営する祖父とともに暮らす「あかり」「ひなた」「モモ」の三姉妹と出会い、さらに彼を取り巻く高校の元担任教師・林田や、同期のライバル・二海堂などの棋士仲間と接しながら成長していく、ハートフル将棋マンガのシリーズ『羽海野チカ「3月のライオン」(ジェッツコミックス)』の第8弾~第9弾。

「ちか」の学校生活を苦しめていた「イジメ」問題も解決し、対局へ意識をもどした「零」だったのですが、このタームでは、新人王戦のご褒美として対局した宗谷名人の秘密や棋匠戦で島田八段の対局した老練の棋士・柳原など再びクセ強の棋士たちが登場してきます。

あらすじと注目ポイント

第8巻 「零」は宗谷名人が隠していた秘密を発見する

第8巻の構成は

Chapter.74 白い嵐②
Chapter.75 白い嵐③
Chapter.76 白い嵐④
Chapter.77 白い嵐⑤
Chapter.78 再始動
Chapter.79 焼野が原①
Chapter.80 焼野が原②
Chapter.81 焼野が原③
Chapter.82 焼野が原④
Chapter.83 ここにいること

となっていて、本巻は、新人王のタイトルを獲得した「零」と宗谷名人との盛岡での記念対局の場面から始まります。前巻の最後で、レセプションでワインをサーブしていたホテルの従業員とぶつかってスーツを汚してしまった宗谷は着物姿での対局で、この時は周囲に気を使わないかれのKYさが強調されていたのですが、実はここには別の事情があったことがこの「白い嵐」篇の後半でわかってきます。

対局の行方は、読者のみなさんの予想通り、「零」の敗けで終わるのですが、翌日、東京へ帰る新幹線が台風の影響で全て運休してしまい、途中駅の仙台で宗谷と一緒に途中下車し、急遽、ホテルを探して泊ったことから、宗谷が抱えてきた「耳」の障がいに気づくこととなります。

今まで、天才ゆえのKYさと考えられてきた前提がガラっと変わってしまう瞬間ですね。

中盤では、大坂での新人王戦の対局で持病が悪化し、緊急入院していた二海堂が退院してきています。すでに不戦敗で2つの黒星を抱えていて、昇級どころか降級点がつきかねない状況なのですが、彼のポジティブさは変わりないのが安心材料です。

後半部分では、主人公が「零」と「二海堂」の兄貴分格である島田八段の「棋匠戦」の対局のエピソードとなります。島田の対戦するのは、66歳でA級現役、タイトルを14期連続で保持している「柳原棋匠」で、本人は宗谷名人が名人戦でこちらのタイトルには目を向ける余裕がないことをいいことに連続保持している、と言っているのですが、実力者であることには間違いありません。

しかし、彼も66歳と一般社会でもリタイアする人が多くなっている年代で、将棋指しとしても高齢の部類に入ってきているため、タイトル戦も体力的にきつくなっていて、という設定ですね。

ここに、初のタイトル奪取を狙う島田が挑むのですが、その結果は・・という展開です。

第9巻 「ひなた」は「零」のあとをおって「駒橋高校」へ進学

第9巻の構成は

Chapter.84 夏休み①
Chapter.85 夏休み②
Chapter.86 あたらしい年
Chapter.87 経る時
Chapter.88 春が来る
Chapter.89 三月町の子
Chapter.90 死神と呼ばれた男
Chapter.91 家族①
Chapter.92 家族②
Chapter.93 bug
Chapter.94 家族③

となっていて、冒頭では、「ひな」たちのイジメの首謀者であった「高城」の個人指導が続いていて、相変わらず反省の気配もない彼女に学年主任の国分の指導も限界が近づいてきていています。結局はすべてを嘗めてかかったような彼女の態度によって、今度は彼女が周囲から取り残されてしまっている感じですね。国分が教室を出ていった後、たった一人取り残されている彼女のぽつねん、とした姿が印象的です。

一方、「ひなた」のほうも進学先をどこにするか悩みの真っ只中にあるわけですが、零の通っている「駒橋高校」に夏休みに遊びに行き。科学部の生徒たちや零とのふれあいの中で、この高校へ進学することを決めることとなります。
受験の前日まで熱を出して寝込むといったトラブルは勃発するのですが、結果としては「サクラ、サク」ですのでご安心ください。

後半では、宗谷名人の同期で、名人を脅かすただ一人の棋士といわれている「土橋九段」が登場します。生活の全てを将棋の研究に捧げている、といってもいい彼なのですが、残念なことに宗谷名人にはいつも苦杯を嘗めさせられています。今回も研究に研究を重ねて、名人戦に臨んだわけですが・・という展開です。
名人戦の結果に、土橋の両親も含め周囲の「ガッカリ感」は相当なものなのですが、本人は将棋の研究に打ち込んでさえいられれば幸せ、というタイプなので、たんたんと宗谷と将棋研究を始めていますね。

レビュアーの一言

「宗谷名人」「柳原棋匠」「土橋九段」と、将棋の世界に生息している「棋士」という生き物の様子が描かれているタームなのですが、やはり一般社会とは違う将棋の世界が見えて興味深いですね。
「勝敗」が全てのような「将棋の世界」と思われているのですが、以外に「棋士」たちは勝負とともに、「将棋」に魅せられ、取り込まれてしまった人々であるような気がしてきます。

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