孤独を抱えた17歳の棋士の勝負と癒しの物語が始まる=羽海野チカ「3月のライオン」1~2

両親と妹を交通事故で失い、プロ棋士に家に引き取られ、孤独を抱えながら成長し、中学生でプロ棋士となった少年「桐山零」を主人公に、彼が下町でもんじゃ焼き屋を経営する祖父とともに暮らす「あかり」「ひなた」「モモ」の三姉妹と出会い、さらに彼を取り巻く高校の元担任教師・林田や、同期のライバル・二海堂などの棋士仲間と接しながら成長していく、ハートフル将棋マンガのシリーズ『羽海野チカ「3月のライオン」(ジェッツコミックス)』の第1弾~第2弾。

あらすじと注目ポイント

第1巻 若手棋士「桐山零」は下町の「あかり」「ひなた」「モモ」三姉妹と出会う

第1巻の構成は

Chapter1 桐山零
Chapter2 河沿いの町
Chapter3 あかり
Chapter4 橋の向こう
Chapter5 晴信
Chapter6 夜空のむこう
Chapter7 ひな
Chapter8 ブイエス
Chapter9 契約
Chapter10 カッコーの巣の上で

となっていて、この物語の主人公となる「桐山零」についてもう少し詳しく説明しておくと、彼は第1巻当時17歳で、中学生時代に史上5人目となるプロ棋士となったのですが、家族の事故死後、引き取ってくれていた棋士・幸田の家を出て下町のマンションで一人暮らしをしています。下町で祖父がもんじゃ焼き屋を営んでいる「あかり」「ひなた」「モモ」の家に食事に呼ばれるようになっていて、高校のほうも入りなおして一年遅れの高校生活を送っている、という境遇です。

ちなみに、「あかり」は家の家事全般を担当しているほか、叔母の経営している棋士御用達の銀座のクラブでアルバイトをしていて、棋士のファンも多い美人ですね。

第1巻の前半では、幸田の家に引き取られた後、亡くなった家族のことを忘れるのと、彼らに気に入られようにと将棋に没頭した結果、幸田の実の娘・香子と息子・歩の将棋の力を凌駕してしまい、それまでプロになりたいと思っていた二人の夢を幼くしてぶち壊してしまった、という苦い経験をしています。それ以来、誰とも深く関わろうとせず、孤独に生きてきた「零」と、彼が三姉妹とのふれあいの中で、ゆっくりと溶きほぐされていく姿が描かれています。

中盤では、将棋タイトルの一つとなっている「獅子王戦」のトーナメント(モデルは「竜王戦」のようですね)で、幼いころからの将棋のライバルである「二海堂晴信」と対局し、彼をコテンパンに打ち砕くところが描かれます。彼はお金持ちのボンボンであるのですが、難病のため幼いころからと闘病生活を強いられていて、学校にも通えない中、将棋だけが彼を支えてきた、という境遇です。しかし、勝負の世界は厳しいもので、二年遅れで四段に昇格してきた彼を、零は撃砕してしまうわけですね。零と二海堂の奨励会に入る前からの熱戦の数々は原書のほうでご確認を。

後半部分では、零が両親を失い、父の友人だった棋士の幸田の家に引き取られ、棋士修行を始める過去が語られます。将棋しか眼中にない育ての父・幸田の期待どおり、着々と実力を伸ばし、ついには中学2年生でプロの手前の三段リーグまで到達した「零」の実力が、思いもかけず、幸田の子供たち、香子と歩の運命をゆがめてしまった経緯と「零」の後悔の日々が描かれます。

第2巻 零のもとへ義姉・香子が訪れ、彼の精神をかき乱す

第2巻の構成は

Chapter11 神さまの子供 その1
Chapter12 神さまの子供 その2
Chapter13 神さまの子供 その3
Chapter14 大切なもの、大切なこと
Chapter15 将棋おしえて
Chapter16 面影
Chapter17 遠雷 その1
Chapter18 遠雷 その2
Chapter19 遠雷 その3
Chapter20 贈られたもの その1
Chapter21 贈られたもの その2

となっていて、前半では子供の頃、将棋会館の前で、レジェンドになっている若手名人「宗谷冬司」を近くで見るエピソードがでてきます。宗谷は当然、当時無名の「零」に気づくはずもないのですが、気づかなかったのはそればかりではなかったことが後巻でわかってきます。ここでは、宗谷に憧れている「零」も、「ひなた」の同級生で野球部の高橋くんの憧れとなっていたあたりに注意しておきましょう。

中盤では、零が世話になっていた棋士・幸田の娘・香子が突然、零のマンションへ押しかけてきます。

彼女はもともと女流棋士を目指していたのですが、零との才能差に打ちのめされて断念。今では、零の先輩棋士である「後藤」と不倫関係にあるようです。香子たちと父親・幸田との関係を修復するために、家を出て一人暮らしを始めた「零」だったのですうが、どうやら無駄に終わったようです。これ以後も、香子は零のマンションに押しかけて泊っていったり、と彼の生活をかき乱す存在となっていきます。

後半では、「零」の属するC-1クラスの順位戦で、零はすでに3敗していて後がなくなっているのですが、二海堂のアドバイスと香子の挑発のおかげで、65歳となっても棋士を続けている松永七段や家庭内DVで離婚が決まっている安井六段を降し、非情な「勝負」の世界に留まることを決断します。

レビュアーの一言

将棋マンガというと、昇段やライバル打倒を目指して・・といったパターンが趨勢を占めていたと思うのですが、主人公が幼い頃から抱えていた「孤独」を周囲の人ととのふれあいで回復していく、という成長物語的な仕上げの本シリーズはかなり珍しい「将棋マンガ」といえて、さすが「はちクロ」の作者の描く将棋世界なのだな、と思います。

かといって、「勝ち負け」がほぼすべての「勝負の世界」をないがしろにしているわけではなくて、心に傷を抱えながらも必死で勝ち上がろうとする主人公も併せて描かれているので、将棋ファンも楽しめるのでは、と思います。

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