国王の処刑を目指して、サン・ジュストの煽動工作が炸裂=花井ソラ・メイジメロウ「断頭のアルカンジュ」4

バスティーユ監獄の襲撃によってはじまる「フランス革命」で、もっとも過激な恐怖政治を敷いた、ジャコバン党のリーダー「ロベスピエール」の右腕として、ルイ16世やマリー・アントワネットを始めとするフランスの王族や貴族を断頭台に送り込み、「革命の大天使」あるいは「死の天使長」という異名をとった、フランス革命期の血塗られた政治家「サン・ジュスト」を主人公に描く”フランス革命”コミック『花井ソラ・メイジメロウ「断頭のアルカンジュ」(ゼノンコミックス)』の第4弾。

前巻までで国王16世の暗殺事件の嫌疑で親友で従僕のジャンが刑死するというショックを乗り越えて、フランス政界に復帰し、「国殺しの堕天使」と異名をとりはじめたサン・ジュストだったのですが、「ベルサイユ行進」事件など、国政に対する不満があちこちで暴発をはじめ、国王一家に対する民衆の視線が厳しくなる中、フランス革命を誘発したきっかけとなる重大事件が発生していきます。

あらすじと注目ポイント

第4巻の構成は

第18話 愛してる
第19話 まだ君を愛してる
第20話 愛し続けるだろう
第21話 未だ君を知らず
第22話 武器を取れ
第23話 死の天使長
第24話 産声

となっていて、冒頭では、民衆の半ば監視下でテュイルリー宮殿で生活するルイ16世とマリー・アントワネットに、アントワネットの実家のオーストリアへの亡命を画策するスウェーデン貴族・フェルゼンの様子が描かれます。

当時オーストリアは、アントワネットの兄・ヨーゼフ2世が統治していて、彼は1777年にフランスを訪れて、自らルイ16世とアントワネットの仲をとりもったといわれている人物で、アントワネットが頼っていけばおそらく歓待してくれたと思われます。

しかし、フェルゼンの亡命計画は、王国を守ろうと考えるルイ16世と逃亡中に民衆に捕まって子供たちが殺されるのを恐れるアントワネットの賛意が得られずいたずらに時間を費やしていきます。

そこに現れたのが民衆の前で国王を賞賛する「ジュレ」と名乗る盲目の女性で、フェルゼンに接近した彼女は、一通の封筒を彼に託します。ジュレによると、その封筒をテュイルリー宮殿の子供部屋に置いてくれば、アントワネットが亡命計画に賛成することになるだろう、とアドバイスします。フェルゼンによって置かれたその封筒からは、ある一枚のコインがでてくるのですが、そrっを見たアントワネットは急に震え始め・・という筋立てです。

少しネタバレしておくと、このジュレの正体は、サン・ジュストで、本書では彼の陽動作戦にひっかかったアントワネットが主導して、革命運動を一挙に過激化させた「ヴァレンヌ逃亡事件」が始まることとなります。

しかし、この計画はフェルゼンなどの外国人が中心となって進めたため、国内の王党派との連携はほとんでできていなかったほか、逃亡に使われたのも特注の6頭立ての豪華な四輪馬車といった感じで、計画が見事に失敗してしまいますね。

このへんはフランスの死刑執行人サンソン兄妹を描いs多「イノサン」のほうが詳しいかもしれません。

そして、ルイ16世の退位と国王制の廃止を訴える民衆たちに対し、ルイ16世と王党派が周辺諸国の支援をとりつけながら王制の継続を図るのですが、ここでサン・ジュストの煽動策によって暴徒化した民衆たちは宮殿をなだれ込み、と「8月10日の武装蜂起」へと進んでいきます。

その後、テュイルリー宮殿からタンプル塔へ身柄を移された国王を国民公会による裁判にかけられることになるのですが、ここでもサン・ジュストによる煽動が効いてきて、という展開です、

ただ、最後半で注目しておきたいのは、フランス王国の廃絶を目指すため、酷薄な行動も厭わなかったサン・ジュストの精神に異変が生じ始めたことと、貴族によって凌辱されたショックで壊れていたマリーの心に復活の兆しがでてきたことなのですが、詳細は原書のほうで。

レビュアーの一言

このタームでは、フランス国内を中心として、国王や王党派の動きや民衆暴動の様子が展開されているのですが、実はこれと密接に国外の動きが絡んでいることは考えておいた方がいいと思います。

この当時、フランスの周辺の諸国は、王政や帝政の国がほとんどで、ほとんどの国が「フランス革命が輸出」されることを望んでいなかったため、「ヴァレンヌ逃亡事件」の翌年にはフランスとオーストリアが交戦状態となり、以後、ヨーロッパ中にフランス革命戦争が拡大し、その結果、フランス革命政府は国民軍の力によって、オランダ、ラインラント、スイス、イタリアを革命政府の支配下におくことに成功しています。

フランス革命は、フランス国内では国王や貴族の圧政や横暴から民衆を解放するという理想の燃えたものだったかもしれないですが、いつのまにか「フランス」による周辺国の征服という様相に変わってしまっていることは認識しておいたほうがよさそうです。

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