リーはシェイクスピアたちと出会い、才能を開花させる ー 「七人のシェイクスピア(Part1)2・3」

七人のシェイクスピア

大英帝国が絶頂を迎えたエリザベス一世の時代に、イギリス・ルネッサンスの本場ロンドンで、劇作家として世に出現。以後、演劇の世界に大きな影響を及ぼし続けている「シェイクスピア」の半生記と彼の創作の秘密を描く「七人のシェイクスピア」Part2のビフォーストーリーであるPart1の第2巻と第3巻。

前巻で、チャイナタウンを襲った洪水から逃れた「リー」がシェイクスピアたちに拾われ、新しい生活を始めるのが今巻。塩商ギルドの芝居の脚本を書いているシェイクスピアと知り合うことによって、リーの新たな才能が発揮されはじめるとともに、シェイクスピアたちも新たな運命へ導かれていく前奏となる巻ですね。

【構成と注目ポイント】

まず、第2巻の構成は

第11話 出逢い
第12話 リヴァプールの屋敷
第13話 分厚い本
第14話 最初の満月
第15話 ザ・ロスト・イヤーズ
第16話 小さな恋人
第17話 失敗
第18話 言葉
第19話 蝋燭
第20話 新しい住人
第21話 ソネット18

となっていて、リヴァプールを襲った水害の後を馬車で走っていたシェイクとワースは、川辺で黒い髪と黒い瞳をした少女・リーを拾います。シェイクスピアが水害の夜に見た、月から滴り落ちた「雫」に導かれたような感じですね。

しかし、リーを家に連れて帰り、介抱している最中に喉の「✕印」の焼印を見て「悪魔の刻印」ではと、ミルとワースが不気味がります、やはり、この時代の迷信は根強いようなのですが、ミルの聖書に誓っての言葉に救われることとなりますね。

シェイクスピアたちと同居を始めた「リー」は、「ミル」に聖書を使って、英語を教えてもらい、だんだんと言葉を覚えていきます。チャイナタウンの中では、現在のチャイナタウンがそうであるように英語を喋る機会も必要性もほとんどなくて中国語しかわからない状態だったと思われます。

後に、「リー」はシェイクスピアの演劇の重要な部分となる「詩篇」の作者となるのですから、ミルの教育がなければ、シェイクスピアの演劇も誕生しなかったといえるのでしょうね。

第2巻の最後のほうで、リーのつくる「詩」の調べの美しさに皆が感動するとともに、シェイクスピアは才能の差を見せつけられることなります。

ここで、塩と砂糖の商売で、シェイクスピアたちの家計を支えているワースは、混ぜものをした砂糖をつかまされてあやうく破産の際にたたされるのですが、リーの予言によって真犯人を見つけることができ、なんとか商売を持ち直すことができたのも、リーを仲間に加えた「お陰」ともいえるのでしょう。

続く、第3巻の構成は

第22話 外の世界
第23話 市場にて
第24話 小さな宴
第25話 月灯りの下で
第26話 トマス・ソープ
第27話 ”オデット”
第28話 未熟な役者
第29話 十二夜①
第30話 十二夜②
第31話 十二夜③
第32話 雪の帆の夜に
第33話 ランスとワース
第34話 リング

となっていてリーの「詩」の才能が弾ける展開となります。

まず、商売で飛び回っているワースが久々に家に帰ってくるということで、そのの歓迎のパーティーをしようと町の市場に買い出しに行ったシェイクスピア、ミル、リーの三人。

そこで、できたての鳥の焼き肉を食べようとするシェイクスピアを制止して、腐った肉を食べて食中毒をおこすのを回避したり。さらに、馬が蜂に刺されて暴走するのを事前に察知するなど、予言の才能を発揮します。

シェイクスピアたちは、この才能がもとで不幸な過去を背負ってきた「リー」の苦悩と、その苦悩を思い出しながら読む彼女の「詩」に感動し、その才能を「世の中」に出していくことを決意することになります。

彼女の才能を発揮させる「場」は「芝居の舞台」です。

ここ、リヴァプールでは素人芝居が盛んで、商人ギルド同士が争って芝居を上演し、人気を競っています。人気なのは、ワイン商組合と食料品商組合で、シェイクスピアの属する「塩商組合」の人気ははるか下位といった状況なのですが、この塩商組合の芝居の脚本を書いていたシェイクスピアにワイン商組合の親方の娘・アネットが、シェイクスピアを逆ナンを仕掛けてきます。
この女性は、自分が美人で人気のあることをしっかり認識して、男を手玉にとるタイプのようですね。

それが気に入らないワイン商組合の芝居の作者・クレタが、アネットの愛をかけて、シェイクスピアに「十二夜」に上演する芝居で勝負しようともちかけてきます。

「十二夜」というのは12月25日から12日間後の1月6日まで続くクリスマスのお祭りで、クリスマスリースもこの1月6日の最終日まで飾ることになっていたり、クリスマスケーキも最終日に食すこととなっている日で、まあ今の日本でいうと「盆」「正月」と「クリスマス・イブ」と「バレンタインデー」を一緒にしたぐらいのインパクトの日ですね。

シェイクスピアとしては、この「十二夜」の大勝負に、リーの詩篇を上演する芝居の台詞に使って、芝居の出来を飛躍的にあげようという魂胆で、どうもこれは悪ノリの感じがしますね。

さて、この勝負の行方は・・というところですが、まあ、このあたりは青春ドラマの定番の挫折劇なので、結果にはあまり期待しないほうがいいのですが、後に、シェイクスピアたちがロンドンへ行くきっかけとなるので、まあ、歴史的には重要な挫折でありますね。

【レビュアーから一言】

今回、「十二夜」で演劇の勝負をするワイン商のクレタは大学出で、ロンドンで芝居をかじったこともあるという男で、実家が破産したせいでグラマースクールしか出ていない、シェイクスピアは

とかなり小馬鹿にされ、闘志を燃やします。

これは、ロンドンに出てからも、ケンブリッジ大出身で、人気脚本家のマーロウに対して闘志の炎を燃やしたのと同じ構造であるようです。劣等感が成り上がっていく起爆剤となるのは、一般人も、シェイクスピアのような歴史上の演劇人も同じなようですね。

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