シェイクスピアたちは「ヴェニスの商人」で勝負に出る ー 「七人のシェイクスピア(Part2) 2」

七人のシェイクスピア

大英帝国が絶頂を迎えたエリザベス一世の時代に、イギリス・ルネッサンスの本場ロンドンで、劇作家として世に出現。以後、演劇の世界に大きな影響を及ぼし続けている「シェイクスピア」の半生記と彼の創作の秘密を描く「七人のシェイクスピア」Part2の第2巻。
シェイクスピア、ワース、ミル、リーの4人でロンドンへ出てきた彼らが、「シェイクピア」チームとして、劇作に取りかかったのですがランカシャーと違って、大都会の厳しさを味わったのが前巻まで。
チームの総力をあげて、脚本の売り込みにかかるのですが、そのためには、当時のイギリスの複雑な宗教対立をかいくぐる危険を犯すのが本巻です。

【構成と注目ポイント】

構成は

第9話 DING,DONG,BELL
第10話 手紙
第11話 クラーケン亭にて
第12話 満月①
第13話 満月②
第14話 満月③
第15話 SHAKE
第16話 タンバレイン大王
第17話 リチャード三世
第18話 今は不満の冬

となっていて、前巻で「シェイクスピア」チームがデビューする起死回生の策本として仕上げた「ヴェニスの商人」のたった一つ欠けていた部分、楽曲の部分を、ケインの母親・アンが劇中歌を創作します。彼女は当時の地主階級であった「ジェントリー(郷紳)」の家庭の娘として育っているので、こうした「教養」はきちんと身に付けている、ということですね。

ただ、ようやく仕上がった「ヴェニスの商人」の売り込みをかけるのですが、一行に芽が出ません。どうやら、シェイクスピアが、自作「オデット」を売り込んだときの強引さが災いして、才能のない脚本家として劇団関係者には認識されているようです。

この苦境を脱するため、ミルが、とうとう「禁断の手」を使うことを決意します、彼がカトリックの司祭であった時に、知り合いだったストレンジ卿ファーディナンド・スタンリーに、この「ヴェニスの商人」を読んでくれるよう依頼の手紙を書きます。当時、エリザベス一世の統治下では、カトリックは禁止されていて、司祭やカトリック関係者をかくまった者は絞首刑や四つ割きにされています。もしバレれば、ランカシャーで死んだことになっている「ミル」の素性を明かすこととなるのですが・・・、という筋立てです。

ネタバレしておくと、これがきっかけでストレンジ卿や彼の夫人・アリスの庇護をうけることに成功します。
ただ、カトリックの雰囲気の強い「ベニスの商人」は大幅修正の末、上演の見通しが立つのですが、マーロウの書いた「タンバリン大王」の芝居を観て、これではマーロウに勝つことができないと感じたシェイクスピア自らが、しばらくの「お蔵入り」を決断することとなります。

で、この「ヴェニスの商人」の代案となるものを提案したのが、アンの息子・ケインです。

彼はイギリスの歴史書を読みふけり、ヨーク家とランカスター家が王位をめぐって争った薔薇戦争当時の国王の一人「リチャード三世」が「ウケる」というのですが、リチャード三世は醜い要望と謀略をもってのしあがった暴虐で有名な王、果たして・・・、といった展開です。

【レビュアーからひと言】

今回、「お蔵入り」した「ヴェニスの商人」は、歴史上は、1588年から1591年ころに書かれたとされる「ヘンリー六世 Ⅲ部作」や「リチャード三世」より後の1596年ごろに書かれたものされています。シェイクスピアは1592年ころから「じゃじゃ馬ならし」や「夏の夜の夢」などのたくさんの喜劇を発表していますので、その中の一つ、ということなのでしょう。
もちろん「ドタバタ喜劇」という種類の「喜劇」ではなく、借金を笠にきて無理難題をしかける悪役の金貸しシャイロックが、最後にアッと驚くどんでん返しでぺしゃんこにされてしまう「スカッ」とするもので、今風の喜劇とは別物と考えておくべきなんでしょうね。。

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