大英帝国が絶頂を迎えたエリザベス一世の時代に、イギリス・ルネッサンスの本場ロンドンで、劇作家として世に出現。以後、演劇の世界に大きな影響を及ぼし続けている「シェイクスピア」の半生記と彼の創作の秘密を描く「七人のシェイクスピア」Part2の第13巻。
劇場戦争に勝利し、マーロウとウォトソンの悪巧みを粉々に砕いて、劇作家としてロンドン中に評判となったシェイクスピアなのですが、エリザベス女王と接触する機会も増えて、女王の秘密を知るとともに、ジョウンとの仲に大きな障害が立ち塞がってきます。この障害を前に二人の仲はどうなるのか、そしてシェイクスピアの劇作はどう飛躍するのかが描かれるのが今巻です。
【構成と注目ポイント】
構成は
第113話 告白②
第114話 伝言
第115話 溢れる想い
第116話 大きな武器
第117話 セント・マーガレット教会にて
第118話 トマスの本
第119話 ニシンとビール
第120話 修道士
第121話 ヘンズロウの日記
第122話 ソネット55
となっていて、まずは前巻の続き、ウェストミンスター寺院の横の小さな教会での「ブラック・レディ(黒い貴婦人)」こと「リー」とエリザベス一世との面会の場面から始まります。
カトリックの司祭への温情の数々が其の場で明らかになり、女王は「表面的に合わせているなら、心の奥でう神を信じていようと私は構わない」と思わず本音を漏らしてしまいます。
八百万の神に囲まれた東洋の仏教徒である私としては、同じキリスト教同志のカトリックとピューリタンの対立は想像の範囲外になるのですが、これも織田信長の宗教破壊のおかげでもあるのでしょう。もっとも、エリザベス女王はガチガチのピューリタンンにうんざりしていたのは事実のようですが、彼女の本当の宗旨については・・・、というところですね。
ここで海軍大臣一座から、「第二次劇場戦争」の挑戦が届きます。第一次劇場戦争で、酒や菓子やおひねりといった劇場収入以外の要素で敗れた、開銀大臣一座の座主・ヘンズロウと劇作家マーロウが、ストレンジ卿一座とシェシェイクスピアを叩きのめすための、満を持して勝負を挑んできた、というところですね。
ここで、マーロウは、ドイツのファウスト伝説をモチーフにした「フォースタス博士」という演劇を上演します。彼の人気作「タンバレイン大王」に続く意欲作ですね。
一方、シェクスピアのほうは全く元気がありません。「ジョウン」との仲を女王に気付かれ、会うことはおろか手紙をやりとりすることも禁じられている状態で、「引き裂かれた恋」の真っ只中、というところです。そして、常女王の目をかいくぐって一夜を過ごすことはできたのですが、この恋はここまで。ジョウンには、女王オススメの縁談が持ち上がっているようですね。
しかし、劇作の面ではこれが抜群の効果を出します。良家のお嬢様であるジョウンとの仲がうまくいかなかったシェイクスピアは、この経験を代償に「決して結ばれることのない運命の二人の物語」である「ロミオとジュリエット」の創作へと繋がっていくのですが、本巻では、この創作場面までが描かれます。
そして、今巻の後半は第2次劇場戦争の前哨戦であるマーロウの「フォースタス博士」やシェイクスピアの、古代ローマの将軍の。血がドバっと流れてたりする場面満載の復讐悲劇「タイタス・アンドロガス」など、この当時の人気劇の様子が描かれているので、ここらをお楽しみくださいね。
【レビュアーから一言】
父親が「郷紳」の階級を目指して悪戦苦闘しながらも、紋章院にいいようにあしらわれて果たせず、またシェイクスピア自身も、若い頃、鹿泥棒の疑いをかけられて投獄されて、故郷を捨てた経歴もあり、当時の「階級差」に痛い目にあってきたシェイクスピアが、ジョウンとの恋でも再びそれにぶち当たることになりますね。後年、シェイクスピアはジェントルマンの「紋章」を手に入れるのですが、その時に彼の心には何が浮かんだのしょうか?
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