近藤史恵「キアズマ」(新潮社)

「キアズマ」とは染色体の交換が起こった部位をさす、といったことは本書の冒頭にあって、ちょっと面食らうのだが、どうやら「他者との交流」とか「人と人との接点」といったことと考えればよいらしい。

 

で、本書は近藤史恵のライフワークっぽくなってきた「自転車小説」の中で、謎解きやレースのどろっとしたかけひきとかがかなり少ない、自転車スポーツの青春小説といったもので、読む口は結構爽やか。

 

粗筋はというと、大学に入りたてのフランスからの帰国子女である「岸田正樹」が、大学へモペット(原付きにペダルがついている「原動機月自転車」といったものらしい)で通学途上に、大学の自転車部のロードバイクと事故ってしまう。それが縁で、自転車部に勧誘され、意外とロードバイクの才能があることが発見され、レースに出、といった筋立て。

そして、こういうスポーツ青春小説は、というと、クラブ内の確執があって、他校のライバルとの切磋琢磨があって、はてまたほぼ同い年か少し年上の、どういうわけか美人との恋愛っぽいやりとりがあって、といったものだが、残念ながら、そういったものはほとんどない。

かといって、ストイックな求道風かというと、そこは「ロードバイク」という今風なものを題材にしているだけあってそういうわけでもない。「ロードバイク」と「ロードレース」の魅力に順々と引き寄せられながら、自らの精神も脱皮・成長していくという、青春小説の「髄」のところはきちんとおさえてあるので、むしろ余計な不純物のない、削ぎ落とされた風合いで、良質の「スピリッツ」をキンと冷やして飲み干すような心地ではある。

 

するすると読めるスポーツ青春小説でありますな。気分がクサクサしている時の良薬でありますかも。

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