駅伝の名監督が教える「ゆとり世代」の能力を全開にする秘訣 ー 原晋「逆転のメソッド 」

本書が書かれた以降、四連覇をし、東海大学に五連覇を阻まれたとはいえ、大学駅伝の雄として君臨している存在となった、青山学院大学の陸上部監督の原晋氏による、若者の育成論、チーム論について書かれたのが、本書『原晋「逆転のメソッド」(祥伝社新書』。

書かれたのは、2015年の青山学院大学の箱根駅伝初優勝の時を中心に、筆者の学生時代・中国電力時代の競技生活、中国電力での営業マン時代、そして青山学院大学の陸上部(長距離)の監督となって、当時、優勝候補どころか箱根駅伝に出場するのがやっとだったチームを、後に優勝常連校となる強豪まで育て上げた記録とアドバイスという仕立てである。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめにー駅伝もビジネスも同じである
第1章 選手時代の栄光と挫折
第2章 「提案型」営業マンの伝説
第3章 箱根駅伝優勝への道〜ゼロからの大作戦
第4章 青学は、なぜ優勝できたのか
第5章 「逆転」を生み出す理論と情熱

となっていて、初優勝から連覇が続いていく中で、著者の本やインタビュー記事は数多く出されるようになったので、すでに見知った内容の方も多いと思うので、ここでは、「ゆとり世代」の取り扱い説明書的な意味合いで取り上げよう。

なので、第1章から第2章までの原氏の競技生活あるいは、中国電力時代のビジネスマンとしての活躍のあたりは、申し訳ないがすっ飛ばかさせていただいて、若者論としての第3章のあたりから読み解いてみる。まず注目すべきは

青山学院大学の場合、陸上競技部の部員たちは一般学生同様に、親の躾をきちんと受け、基礎学力の高い学生がほとんどだ。
インターネットやITはお手のもので、知識の豊富さには目を見張るものがある。
したがって、こちらがきちんとした指導理念を持ち、理論武装をしたうえで対応しないと言うことを聞いてくれないし、場合によっては見下されかねない。
逆に言えば、きちんとした指導理念を持って理屈を説けば、学生たちは付いて来るということだ。

ということで、ここらは若者についての論述も多く、著者と共著もある原田曜三氏も指摘するところと同じで、インターネットやSNSで「知識」「情報」の量が、それ以前の世代に比べ格段に増え、さらには、「能動的に情報へタッチできる」世代であるから、「上からのお達し」的な指導法では支持が得られないということは明白なようだ。
ここは、

ネット社会の光と間のうち、闇のほうの弊害として、学生たちは情報の貼り付け作業がすごく上手だということがある。
だから、本心では納得していなくても、表面ヅラでよい子を演じていることもあるので、指導者はそこのところを見逃してはならない

というところにも現れていて、にこやかに賛同してくれるから、自分についてきてくれるのだろうと安易に思わず、「ゆとり世代」の部下の気持ちをつかむには

目的を達成するにもいろいろなやり方があるわけで、なぜ今このやり方を選ぶのかということについても説明しないと学生は動かない。
そうやって目的と方法について納得して練習をすれば、上達も速くなる。

といったことが大事なようで、スポーツとビジネス双方に共通する部分であるでしょうね。

このほか、有望な選手のスカウトには「青学カラー」があることを大事にする、とか、試合に体調のピークを持ってくるための「目標管理シート」であるとか、「ゆとり世代」のビジネス・ノウハウの指導に活かせるところもかなりあるので、人事担当者は目を通しておいた方がよい一冊ですね。

【レビュアーからひと言】

本書の主題とは直接関係はないのだが、筆者が最後のほうで記す

植物をある土地から別の土地に移すとき、土を付けたまま移植すると根腐れして生育がよくないのだそうだ。
だから、根に付いた土を水できれいに洗い流してから次の土地に植えるのだという。
同様に、私たちも挫折して人生を切り換えるときには、根っこをよく洗い流して次のステージに進む必要があるのかもしれない。

という言葉は、成績のあがらない陸上ランナーから、腕利き営業マン、そして駅伝優勝常連校の陸上部監督と、まさに「人生の切り替え」をやってきた筆者ならではのものがある。今の環境にいまいち評価されていないと思う人は、ここらを胸に心機一転してもよいかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました