「捕物帳」をはじめ時代小説は、とても中央集権が進んでいるもので、たいていの場合、東京(江戸)のしかも日本橋、神田、深川あたりをうろうろするのが通例で、新宿・品川あたりまで出張ることすらも少ないもの。しかも、武家ものであれば、幕府かあるいは町奉行所といったのが定番なので、今巻のように大名家、しかも外様が主役となるのはかなり珍しい。
しかも主人公の瀬能数馬は、祖父が旗本から幕命で加賀藩士になったという加賀藩内では微妙な立ち位置の家の若当主という一風変わった設定である。
構成は
第一章 天下の行方
第二章 執政の枷
第三章 隠密の姫
第四章 藩の顔
第五章 戦場へ
となっていて、本巻では、四代将軍・家綱の具合が悪くなって、次代将軍は加賀・前田家の前田綱紀に、と老中・酒井忠清が画策を始める辺りから始まる。
なぜ、外様の、なぜ加賀藩が、ってなところは本書を参照してほしいのだが、感想としては、加賀・前田家をはじめ外様の大大名には、幕府の婚姻政策が二重三重に張り巡らされていたのだな、とその周到さに関心するとともに、幕府をはじめ権力機構ができあがると、側近が、トップの傀儡化、無力化へ向けて動き始めるのはどこでも、いつでも同じなのだなと勝手に腑に落ちる。
話は、後継話を藩内でまとめるために、前田家の重臣・前田直作がお国入りして藩内が大荒れになったり、前田直作が江戸へ帰還するのに瀬能数馬が随行員にされたり、あろうことか、藩内の大家の出戻りの姫を娶ることになったり、とか、読みようによっては波乱万丈の、事件つづきの展開である。
若干、説明部分が多くて冗長に感じるといったレビューがAmazonでされていたが、外様大名家を舞台にしているので、権力構造や組織が、江戸幕府と違ってなじみがない以上致し方ないのかな、と思う次第。
この巻自体は、前田直作が江戸へ帰還する途中までとなっているので、これから始まるであろう、「留守居役」シリーズの導入譚という位置づけでもあるので、登場人物と人間関係をしっかり頭にいれる作業がいるが、話自体はテンポもよくさくさくと楽しめる。さらには、加賀藩という外様の大大名の家の、複雑怪奇なお家事情や人間模様を楽しむといったサイドメニュー的な楽しみもある。天候が悪くて外に出るのが億劫な連休の読み物にいかがでありましょうか。
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