瀬野数馬、留守居役デビュー。加賀・前田家に降りかかる難題を解決できるか? — 上田秀人「百万石の留守居役 3 新参」(講談社文庫)

第1巻、第2巻で、四代将軍家綱の後継にという申し出を見せ金にして、加賀・前田家の取り潰しを画策していた大老・酒井雅楽頭の謀略から、からくも逃れた、加賀・前田家。本シリーズの主人公の瀬野数馬は、その際の働きが認められ(?)、藩の重臣・本多政長の娘を押し付けられるとともに、江戸屋敷の留守居役を命じられる。
構成は
第1章 藩の顔
第2章 慣例の棘
第3章 遊興の裏
第4章 留守居役の形
第5章 枕元の攻防
となっていて、本巻は、数馬の華々しい江戸デビューを期待するところであるが、「留守居役」という本来なら老練な年配の交渉上手が任命される職に、国元でも交際があまりなく、剣術の腕はたっても、朴念仁の若造が任命されたものだから、どうにも気勢が上がらないのは確か。
とりわけ、越前松平、酒井、井伊、会津松平、高松松平、津山松平といった、加賀・前田家と同格とされる”同格組”の留守居役の面々へのご挨拶と称しての品川の旅籠での接待で
留守居役の挨拶は徹底していた。宴席に招待したうえ、女まで要ししなければならない。それに本人は入らない。数馬はずっとこの部屋で食事も摂らず、翌朝まで控えていなければならないのだ。
これも慣例であった、いつから始められたかはわからないが、新参者が組へ迎え入れられるために儀式であった
といったあたりは、「新人いびり」は、江戸期からの伝統か・・、と少々暗くなる。
第4章のあたりで、今回の加賀・前田家へ世継ぎ話がもってこられた本当の理由、家綱と酒井の「宮将軍」の企みがはっきりする。当然、御三家や館林の綱吉、老中・堀田正俊などなどの面々が、面白いわけがなく、次期将軍位を巡ってがちゃがちゃと暗躍するのだが、病気の上様をお慰めするためのイベントを、と水戸→堀田→加賀・前田家と思惑が行き来するところは、さながら戦とおなじであるな、と感心する。
五代将軍の跡目勝負の勝者が誰かは、歴史事実で明らかなのだが、その裏に実は・・、といったところは時代小説作家の腕の見せどころでありますな。
今回の世継ぎ騒動で、加賀藩から逃亡した、前任の江戸留守居役の小沢が、老中・堀田正俊の留守居役になっているのだから、あれこれと事を面倒にしている。さらには、許嫁の琴姫の侍女の「佐奈」が、姫の命によって数馬の世話をしているのだが、あれこれ誘いをかけてきて、うかうかと誘いに乗ると落とし穴に落ちそうな感じなのであるが、うらやましくもありますな。
さて、留守居役というのは、役目柄、密かに幕閣や他藩の留守居役と会合を持つ機会が多いため、妾を抱えて、その妾宅を、その密談場所にする習いであった。堀田老中の留守居役・小沢が数馬の妾と妾宅を世話すると言ってくるのだが、女を使って数馬を籠絡しようという小沢の奸計はうちくだくため、国元の琴姫が許可した”妾”は・・・といったところで本巻は終わり。
四代将軍・家綱は没し、次の将軍が綱吉とほぼ決まった所で、権力構図の変化は、また前田家にあれこれと厄介事をもたらすであろうし、それにしっかりと数馬も巻き込まれるのであろうな、と次巻以降の波乱万丈を期待して次巻に続くのであります。

【関連記事】

外様大名家という一風変わった所を舞台にした時代小説シリーズのはじまり、はじまり — 上田秀人「百万石の留守居役 1 波乱」(講談社文庫)

瀬能数馬のデビュー活劇と将軍家後継ぎ問題の顛末は? — 上田秀人「百万石の留守居役 2 思惑」(講談社文庫)

将軍没後も前田家に降りかかる大老の謀略 — 上田秀人「百万石の留守居役 4 遺臣」(講談社文庫)

瀬能数馬、留守居役としてはまだまだ未熟者である — 上田秀人「百万石の留守居役 5 密約」(講談社文庫)

数馬の「会津行き」は、なかなかの収穫を得た旅になりましたな– 上田秀人「百万石の留守居役 6 使者」(講談社文庫)

継室探しは、加賀前田家を騒動に巻き込んでゆく。それにつられて数馬も・・ — 上田秀人「百万石の留守居役 7 貸借(かしかり)」(講談社文庫)

数馬、参勤交代で頭角を現すか — 上原秀人「百万石の留守居役 8 参勤」(講談社文庫)

江戸・加賀両方で、騒ぎは大きくなる一方 — 上原秀人「百万石の留守居役 9 因果」(講談社文庫)

一馬、福井藩へ使者として赴き、大騒動を起こす ー 上田秀人「百万石の留守居役(十) 忖度」(講談社文庫)

【百万石の留守居役シリーズ】

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です