相手を説得するテクニックが満載。でも悪用厳禁でお願いします。 — 向谷匡史「説得は「言い換え」が9割」(光文社新書)

いくらこちらが頑張っても、なかなか相手の理解が得られなかったり、堅い心の扉が開かなかったり、という経験は、ビジネスマンだけでなく、多くの人が経験していることであろう。とりわけビジネスマンの場合は、クライアントや上司、あるいは部下を「説得」することが仕事の根幹であるから、なおさら悩みは深い。本書は、「相手を説得できない」と悩んでいる方への福音の書になるかもしれない(?)
 
構成は
 
第1章 説得のプロが使っている言い換え術
第2章 相手の心を手玉に取る言い換え術
第3章 人を動かす言い換え術
第4章 迫ってくる相手をうなす言い換え術
第5章 天下無敵!「逆転の言い換え術」
 
となっていて、基本のところは「言い換えの技術」をシチューションに応じてレクチャーしてくれるもの。
 
なんとなく「言い換え」というと、言葉でごまかす感じがあって、印象gあよくないのだが、冒頭のところで、マラソンの小出コーチが、故障した選手にかける
 
「どんな状態のときでも「せっかく」と思えばいいんだよ。そうすれば、すべてが力になる」
「せっかく故障したんだから、しっかり休もう」
(中略)
言い換えによって新たな視点を提示し、
(それもそうだな}
と選手は気持ちを前向きに切りかえる(P14)
 
といったエピソードを読むと、言い換えは一種の「ごまかし」かもしれないが、相手に元気を出させる、あるいは新境地に導く効果のある方法であるな、と気づく。
 
とはいっても、人の悪い部分はあって、
 
人間は常に自分に対する言い訳で精神的なバランスを取っている。したがって、これを説得という視点から見れば、自分に言い訳する材料を相手に与え、それを大義名分にしてやれば、相手にとってネガティブなことであっても説得しやすくなる(P34)
 
とか
 
相手に一線を超えさせようと思うなら、相手に「決断」を迫っては駄目。「決断=責任」という負荷がかかるため引いてしまう。したがって、あの手この手の言い換えで、決断させずして、いかに引き込んでいくか(P65)
 
とかいうところは、ちょっとブラックな香りはするのは否めない。
 
このほかにも
 
二者択一で迫る
これが、相手を一気に押し切る鉄則である(P84)
 
とか
 
決断を迫るとき、あるいは断念を迫るときの魔法の言葉がある。「もし」という仮定の問いかけである。
(中略)
「もし」という仮定の問いかけを使うのだが、あり得そうな事態ではなく究極の状況を想定してみるのがポイント(P93)
 
とか、人の心理の隙間をつく「説得のテクニック」は満載であるのだが、あまりテクニカルな説得技術を駆使ばかりしていると、どんどん人が悪くなりそうな気がしてくるのも確かではある。毒は時にして特効薬になりうるが、乱用は禁物でありますね。
 
ただまあ、営業に限らず、組織内での説得作業に手こずっている向きは一読して損はないし、なんとなく、自信をもって説得に当たれそうな気がしてくるのが不思議な一冊であります。
 

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