”季刊落語”の「緑」さんも、二つ目昇格っぽく、良い味だしてきました。 — 大倉崇裕「やさしい死神」(創元推理文庫)

落語専門誌の編集者二人を、ホームズ役とワトソン役にした、この「季刊落語」シリーズの三冊目である。2冊めは、落語界の名門の跡目相続絡みの事件を扱った長編であったので、短編集としては2冊めとなる。編集長の「牧」と新米編集者の「間宮緑」のかけ合いもこなれてきて、シリーズとしては円熟してきところであろうか。

収録は

やさしい死神
無口な噺家
幻の婚礼
へそを曲げた噺家
紙切り騒動

となっていて、いくつかを、レビューすると

一話目の「やさしい死神」は月の家一門の領袖・栄楽が自宅で昏倒。意識を失う前に「「死神にやられた」と言う一言。もちろん、謎解きの鍵となる噺は、何をしてもうまくいかない男が、死神の助言で医者になるが、最後は死神を騙したため、命を失いそうになる。男は命をつなぐロウソクの火を他のロウソクにうつそうとするが・・という「死神」。この噺の死神が座っている場所がヒントですな。
話の大筋は、栄楽師匠が昔破門した、才能ある噺家に関係するもので、最後は人情噺よろしく強情な師匠と弟子のやり取りで終わるのが、なんとも魅力的である。

二話目の「無口な噺家」は、松の家文吉という大名跡の跡目を巡る、演芸協会の会長や後援会長の無理押しを阻止する話。無理押しの阻止のためには、大病をしてリハビリ中の「松の家文喬」の復帰とその弟子の伸喬と文三の奮起が必要となるのだが、文喬は大病後、人が変わったようでちゃんと復帰デキるか危ぶまれる中・・といった展開
。文喬師匠の復帰のため、弟子二人が策を巡らすが実は・・、というところで、やはり古手の噺家は奥が深いや、と恐れ入る。

すべての話をレビューすると興ざめであるし、営業妨害にもなるので、第三話、第四話は飛ばして、最終話の「紙切り騒動」は、「間宮緑、はじめてのお使い」ならぬ「はじめての単独探偵役」ということで、「噺家」から「紙切り」に転じたいという若手落語家・松の家京太とその師匠の間に入って、破門話をなんとか丸く納めようと、京都で探偵行を行う話。
その若手落語家・京太が紙切りを志すきっかけとなった、三十年前に活躍し突然姿を消した、伝説の紙切り芸人「紙切り光影」を見つけようというのだが、さすがに三十年前のことでなかなか手がかりが見つからない。果ては、緑の行き先々に先回りして手掛かりを先取りする男も現れる。
さて、「紙切り光影」は見つかるのか・・・、そして京太は「紙切り」芸人になれるのか・・・といった筋立て。

さて、落語ミステリーの読みどころは、落語だけでもなく、謎解きだけでもなく、その2つの混合具合というか、絡み合い具合で、このシリーズが、互いに邪魔したり、主張しあったりということもなく、ほどよい感じである。これを契機に、リアルの落語を聴いてみるのも一興かもしれんですね。

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