琴姫、愛する夫の救出に乗り出す ー 百万石の留守居役(十一) 騒動

隣藩の松平福井藩に使者として赴いたものの、加賀前田家の取り潰しを踏み台に豊穣な地への国替えを狙う福井藩の本多大全と、そろそろ精神状態がおかしくなってきた松平綱昌によってあやうく殺害されかけた、瀬能一馬たちの救出劇が本書『上田秀人「百万石の留守居役(十一) 騒動」』(講談社文庫)。

【構成は】

第一章 将軍の手
第二章 女駕籠
第三章 姫の顔(かんばせ)
第四章 街道の応答
第五章 城下騒乱

となっていて、ほぼ全てが、福井藩内での大活劇。ただ、当方に地理感がなくて、頭の中で、リアルに映像化できなかったのが残念。この際、北陸旅行を考えて、「百万石の留守居役」シリーズの舞台を歩くのも面白いような気がする。

【あらすじ】

まずは、一馬一行の救出劇と平行して、「堂々たる隠密」本多政長を江戸へ呼び寄せる策謀が動き始める。この策謀の黒幕となるのが、老中・大久保加賀守なのだが、この人物、老中・堀田備中守が殿中で稲葉正休に斬り殺された後、政権の中枢を握り、念願の小田原に返り咲いた人物なので、このシリーズでも、さらに重みを増してくるのかな、と推察する次第。

さて、福井藩で騒動に巻き込まれた、一馬一行急須つなのだが、なんと、一馬の新妻・お琴姫が、自ら救出に向かい事になる。彼女の乗る女駕籠に、一馬を乗せ、福井藩からの脱出を目論むのだが・・・、というのが本巻の読みどころ。

もちろん、琴姫自らが、といっても単独で行くわけではなく、お供を連れてのこと。加賀の忍びを差配する本多家のお姫様であるから、腕利きの「女軒猿」が複数名同行するということで、平穏な救出にはならないことは、この設定で明明白白である。

さらに、琴姫は評判の美人である上に、福井藩の当主・松平綱昌の精神状態がおかしくなってきていて、自分の地位を守ろうとするだけでなく、色ボケもひどくなる、という展開なので、一馬の命だけでなく、琴姫が乱暴されないか心配させるあたり、筆者は読者の心の動きをよくつかんでいますな。
ちなみに、この松平綱昌というお殿様、後に、史実でも、精神状態が不安定で乱行が続いて、藩主の座を追われてしまう。その原因は、この殿様が代替わりをした時の、跡目を巡っての藩内の対立にあったようで、加賀藩との軋轢があったかどうかは別にして、この類の藩内の騒乱はあったのかもね、と想像させる。

なんといっても、今巻の読みどころは、琴姫一行の侍女として付き従う、夏、杉、楓といった、「女忍」の大活躍である。
例えば、大聖寺藩の領内で琴姫を殺そうとする、加賀藩の反本多政長派の侍を城下の宿屋で

いいな、殺すなよ。殺せば騒ぎになる、姫様のごシュッ質に影響が出ないとはいえなくなる、殺すkとなく、戦う力を奪え。目を潰すか、両足の腱を切るか、両腕をへし折るか。それくらいならば、喧嘩を装えよう

と苦もなく片付けたり、一馬と合流して藩境を目指す琴姫一行を襲う、越前松平藩の先手組に対して

越前松平藩士たちがうろたえた。見た目は若い乙女が、馬よりも早い足で向かってきているのだ。困惑して当然では会ったが、それは大きな隙きになった。
「邪魔だ」
「愚か者ども」
夏が逆手に握った懐刀を小さく閃かせて越前松平藩士の首を裂き、楓が手裏剣でその隣の藩士の目を突いた。
「手裏剣は高いのでな、そなたらていどで使い捨てにはでききぬ」
楓が続けてその奥にいた三人目の喉をついた

といった風に、二十人以上の藩士を壊滅させたり。圧巻は、福井藩主・松平綱昌たちが、一馬・琴姫一行を取り囲んで狼藉を働こうというところで

「羽根田、御子神、志賀、女どもを押さえろ。吾が加賀藩の者を・・・」
命を受けた工藤が志賀たちに指図を出した。
「・・・どうした、動け」
反応しない三人に、工藤が怪訝な顔をした。
「・・・・」
声もなく、三人の藩士が馬から落ちた。
(略)
驚いた工藤が落ちた藩士の喉に手裏剣が刺さっているのに気付き、それを見た綱昌が絶句した。

といったところは、胸のすく思いがしますね。

【まとめ】

ネタバレを少しすると、越前松平家を牛耳り、主家を危うくさせた「本多大全」は小悪党っぽく、藩外に逃亡しようとするところを成敗されてしまう。
ハラハラ・ドキドキ、、そして大団円。しかし旅は続く、といった「水戸黄門」的時代劇の要素は全ておさえてあるので、秋の夜長の読み物に最適な気がいたします。

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