縁結びや国引き神話で有名な「出雲」の地に、老舗で、キレイで、ご飯が美味しいホテルがある。その名も「ホテル櫻葉」というのだが、そこは、ある噂があるため、お客はまばらで閑散としているのだが、総じてみると、かなり泊り客は多いという不思議なホテルである。
そんなホテルを舞台にした、「不思議」の物語が『「出雲のあやかしホテルに就職します」(双葉文庫)』である。
【収録は】
第一話 霊感娘と就職
第二話 ホテル櫻葉
第三話 冬緒と白陽
第四話 比良と桃山
となっていて、シリーズの最初の巻とあって、まずは、シリーズの主人公である「時町見初(ときまちみそめ)」という就活中の女の子の登場から始まって、彼女がホテル櫻葉への就職、そして就職後の「不思議」の始まり、というところである。
今巻は、最初と会って、「不思議」の話もホテルの他の従業員にまつわる話が多いですな。
主な登場人物は、ホテルの経営者の櫻葉永遠子(さくらばとわこ)、総支配人の柳村雪津、ベルボーイの椿木冬緒、料理長の桃山久、バーテンダーの十塚天樹・海帆といったところで、実はこのメンバーそれぞれがワケありなのであるが、まあ、そこは物語の進展にあわせて明らかになっていくので、アセリは禁物である。
【あらすじと注目ポイント】
第一話の「霊感娘と就職」は、シリーズ開始のプロローグ的なお話。主人公となる「時町見初」が就活に大苦戦している物語。なにせ、彼女が就職活動をする会社がことごとく事件がおきて潰れてしまうという、就活生の疫病神のようなことえおするのである。
そして、そんな彼女が、ホテル櫻庭のリクルーターでもあった「椿木冬緒」に見込まれたが、通信関係の会社の面接会場での幽霊撃退騒ぎの中で、なついてきた女性幽霊への対応で、実は「見初」は幼い頃から「見える」質という設定である。乱暴をしようとする男性幽霊を掴んで投げ飛ばす勇姿にほれぼれしますな。
第二話の「ホテル櫻葉」は、幽霊ホテルこと「ホテル櫻葉」に就職した「見初」が数々の不思議に遭遇し始める話。ホテルの最初の訪問で、カッパの夫婦に出会ったり、勤めて最初客が「天狗」であったり。もっとも、ホテルの経営者の櫻葉永遠子も、先輩ベルボーイの椿木冬緒も陰陽師の名門で一族であるらしいので、もっともといえばもっともである。
第三話の「冬緒と白陽」は、そんな椿木冬緒のトラウマが癒やされる話。彼は、一族から追放された身であるらしいのだが、若い頃、一族が討滅しようとした妖怪を逃してしまったせいであるからだという。ただ、彼の一族が、善悪にかかわらず妖怪を殲滅する陰陽師の一族で、その時の妖怪も実は・・・、といった設定。
第四話の「比良と桃山」は、シェフの桃山の恋物語。彼は妖怪が見えない体質になっているのだが、その陰に、遊女の恨みが凝り固まった妖怪・比良との恋物語があって、という設定。
男の魂も食って生きたきた「比良」が彼と出会ってからそれを辞め、ゆっくりと死んでいくのだが、その間際の「桃山」との最後の燃え上がりが泣かせます。
【レビュアーから一言】
ストーリーの中で、主人公の「見初」も実は陰陽師の「四華」の一つと呼ばれる一族の出身であることが判明してっきたり、彼女の家族が一族から離れたきっかけに「冬緒」の一族が絡んでいそうであったり、とか次巻以降へつなぐものも散りばめながら、まずはシリーズのスタートいう感じが本巻。とはいってもテンポよく「不思議」の物語と「見初」の活躍がコラボしているんで、サクサクと読み進めることができる。ライトノベル好きには、お好みの物語ではないかな。
人間よりも「妖怪」や「神様」の宿泊の方が多いホテルで、経営者や従業員に陰陽師の家系の人間がごろごろ、しかもホテルの場所は「出雲」という、地方都市では絶好の設定は、近くに住まう住民の一人として応援したいノベルである。
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