スズメバチを使った陰謀事件は薄巡査の推理により崩れ去るのであった ー 大倉崇裕「警視庁総務部動植物係 蜂に魅かれた容疑者」(講談社文庫)

警視庁総務部総務課動植物係に勤務する強面のもと刑事・須藤警部補と、制服姿でいるとコスプレ趣向のキャバクラ嬢と誤解される薄巡査部長の二人が、動物を巡っておきる難事件を解決していくシリーズの第2弾。今回は長編仕立てで、メインとなるのは「蜂」しかも、その凶暴性ゆえに、現実の世界でもあちこちで被害者が出ている「スズメバチ」である。

【あらすじと注目ポイント】

物語は、この動植物係をつくって二人を配属した、キレ者の警察幹部・鬼頭管理官が、新興宗教「ギヤマンの壺」の信者らしき犯人から襲われたことからスタート。このあたりは、須藤が警視庁の勤務が継続できた恩人である「鬼頭」の仇をうつ、ってな雰囲気で物語が始まるのを、ふーんという感じで読み飛ばすのが普通であろうが、実は、この物語の裏筋となっているので要注意である。

さて、物語のほうは、東京の各地で、スズメバチの目撃情報が相次ぐのだが、それはバスの中であるとか蜂と縁のないところでのものが多いのだが、そのうち、東京近郊の山中で「スズメバチ」に襲われて入院している「今尾」という男の聴取を、須藤と薄のコンビが行うことになる。彼がスズメバチに襲われた原因が、間違った山の指導標が立てられてたせいであるらしく、原因をこのコンビが調べ始めるうちに、高速道路で蜂による事故が起きたり、郊外に自然公園で蜂に母娘が襲われそうになったり、と蜂に関係する事件が頻発し始める。

どうも、この蜂関連の事件は、「ギヤマンの壺」の強制捜査が近づいてくるにつれ、頻繁に起きるようになってきて、ついには、ファミリーレストランに、スズメバチが仕込まれた箱が置かれていて、須藤・薄コンビと同行していた、県警の警察官がさされて負傷するという事件が起きる。
やはり、蜂に関する事件は偶然の事件ではなくて、「ギヤマンの壺」の強制捜査を阻止するために、教団関係者が仕組んだものなのだろうか・・・?、といった感じで展開していくのである。

ネタバレ的にいうと、「ギヤマンの壺」の信者に襲われた、鬼頭管理官の「大怪我」は偽装で、この管理官、この騒動を利用して、この教団の強制捜査に向けて舞台を整えていくのだから、一番の食わせ者であることには間違いないですね。

【レビュアーから一言】

今巻は、この「動植物係」シリーズのは珍しく、郊外山の中での、犯人グループとの大立ち回りがあったり、強制捜査を阻止したい教団関係者と蜂を操り真犯人による「鉄道駅」の蜂による無差別テロの阻止であるとか、動物のいる犯行現場や被害者宅中心に展開するほかの話とは違って、かなりのアクション、サスペンス的な味わいもあって結構新鮮である。

ただ、そんな場面であっても、薄巡査の「天然ボケ」ぶりは、ますます健在であるんで、彼女のファンは安心してくさい。

いつもの短編集とは違って、登場する「動物」は”蜂”だけであるので、動物に関するウンチクはバリエーションが少ないが、物語の展開の幅がそれを補ってますので、安心してお読みください。

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