「もう限界だ」の先に踏み込み「未来」を開くためのノウハウ ー 為末大「限界の正体  自分の見えない檻から抜け出す法」

仕事にしろ勉強にしろ、なにかを活動していてぶち当たってしまうのが、「限界」というやつで、それを感じてしまうといままでの努力がなにか価値のないものに思えたり、これから努力をしようといく気力を削いでしまう、もっとも厄介な代物である。

そんな「限界」というものについて、陸上のハードル競技のオリンピックの元メダリストで、引退後も幅広い分野で現役時代に劣らず活動している筆者が、自らの経験から「限界」というものを正面から見すえ、

もしかすると、限界とは、超えるものでも、挑むものでもないのではないか。
自分の思い込みや、社会の常識が心のブレーキになっているのであれば、それを外しさえすれば、今この瞬間にも、自己ベストを更新できると思うのです。

として、「限界というもの」が持っていいる「人を萎えさせる力」が脱却する方法を説いたのが本書『為末大「限界の正体  自分の見えない檻から抜け出す法」(SBクリエイティブ)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 誰かができれば自分にもできるという心理
第1章 限界とは可能性を閉じ込める檻である
第2章 なぜ人は自ら限界の檻に入るのか
第3章 自分の見えない檻から脱出する
第4章 無意識をつかって、自分の可能性を拓く

となっていて、まずなにより

「多くの人は、自分の限界の『もっと手前』を、限界だと思いこんでいる」

といったフレーズには最初「えっ」と思ってしまうのだが、それに続いて筆者が「矛盾するとように、思うかもしれませんが、僕が限界はあると思っています。しかし、その限界は、力を出し切った人の前にしか、あらわれないものです。人間は本気で挑んだときにしか、自分のハ範囲を知ることができません」というところとセットで考えると、100メートルで挫折してハードルに転じて実績をあげたオリンピアンの言葉だけに重みが違う感がある。

といっても、筆者の主張は、よくあるスポーツで成果を上げた人の忠告にあるような、「とにかく頑張れ」「気合があれば大丈夫」といったある種脳天気なアドバイスではなく、限界を感じてしますメカニズム、構造からまず入っていくという「理性的」なアプローチである。

そして、「限界」を感じるメカニズムは、

いったん、限界を感じると、その中でしか思考ができなくなります。
(略)
行動力がなくなり、身動きが取れなくなります。
さらに、限界の檻の中にいるのが、次第に心地よくなってくるからやつかいです。
しかし、限界の檻をつくり出したのは、自分自身の思考や心。
自分でつくった檻の中に、自ら入り、もがいているのが、今の僕たちなのです。(P26)

といった「自分がつくりだした枠」か

限界の檻をつくる要素のひとつが、周囲の期待です。
世の中の人の期待は、たいてい世の中の「想像の範囲」内にあります。
ということは、期待に応えようとすると、想像の範囲の中でしか活躍できません。
周囲の期待に応えることは、言い換えると、社会の檻の中で最大限、頑張ることと同義ではないでしょうか。かけられた期待以上の結果は出せない。そんな気がします(P63)

という「他者がはめ込んでいる枠」が原因であることが多いのだが、これに対して筆者は前者については、「今までとは違うことを取り入れ、自分に揺さぶりをかけることで突破を図る、自分の認識や常識を上手に書き換え、まだ見ぬ力に出会う」ということを、後者については「期待とは、相手が勝手に抱いたイメージにすぎないし、そのイメージに自分を合わせようとすると、自分本来の行動がとれなくなってしまうことがあります。だったら、周囲のイメージによってつくられた自分になろうとしないほうがいい」という処方箋を提示しているのだが、つまりは、「とらわれないこと」「変わること」が『「限界」のもつ人を萎えさせる力』にとらわれない最良の対処法であるように、当方は思えたのだがどうであろうか。

このことの延長で、最近よくいわれる「自分らしさ」「自分探し」については

自分らしさを見つけることは、自分の限界を設定することに似ています。
「私は○○なタイプ」「自分とは、こうなんだ」と自分で自分を決めつけてしまうと、かえって、不自由になります。
自分らしさという言葉にとらわれ、自分自身を狭い檻の中に押し込めることになりかねないからです

と筆者はかなり厳しいことも言っているので、自分探しで彷徨っている方々はご注意いただきたい。

で、こうしたことを受けて、筆者は自分の経験に基づいた提案をしてきていて、例えば

限界を突破するためには、これまでのパターンから外れて、予測できない変数を取り入れてみることが大切です。
そのためには、今までやったことのない選択をしてみることが必要になります。
いちばんいいのは、他人に無茶ぶりされることです。(P128)

選択肢を変えないかぎり、自分を大きく変えることはできません。
やったことのないこと、知らないこと、興味がないことをやつてみるからこそ、経験の幅が広がり、自分の可能性を開くことができます。
それは、言葉でいうほど簡単ではありません。
引退後の僕も、現役時代なら、絶対にしなかったことに身を投じたことで、新しい自分に出会うことができました(P131)

といった荒療治に近いものから

人間は理性的になりすぎる傾向があるので、モチベーションを持続させたいのであれば、頭ではなく感情のエネルギーを利用したほうが得策です。
僕は、ワクワク感が人を動かすと考えています。
ワクワク感のないところでは、人は能動的にも、クリエイティブにもなれません。(P146)

といった精神面からアプローチするノウハウもある。ここらは本書の読んで、限界突破に向けて、一番自分を励ましてくれるものを選んでいくのかよさそうですね。

【レビュアーから一言】

25年間の競技生活を通して「人間には、「できること」と「できないこと」があって、どれほど努力をしても、どうにもならないことがあります」といったことは十分認識しながら、

限界を知ることができるのは、全力を出したことがある人だけです。
ですが、長い間競技をしてきて思うのは、全力を出したことがある人が少ないということです。(P184)

とし

限界の檻から抜け出したいなら、全力を尽くすことです。
量を積み上げ、思考をめぐらせ、戦略を立てて、本気になってみることです。
行動の量と、行動の質を変えてみることです。
量を拡大したり、揺さぶりや変化を与えれば、まだ先に進めるはずです。(P185)

という筆者の言葉は、厳しくもあるが、限界にひるまずチャレンジしてきたアスリートの言葉として、とても重みがある。壁にぶつかって意気消沈したり、悩んでいる人にオススメする一冊ですね

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