「諦める」に続く「逃げる」の為末流解釈 ー 「為末大「逃げる自由 」(プレジデント社)

世界選手権で銅メダルも取り、オリンピックにも三度出場している、400メートルハードルの伝説的アスリートである「為末大」氏の、「限界の正体」や「諦める力」に続く人生指南書で、読者からの「悩み相談」への回答をまとめつくりになっているのが本書。

100メートルからハードルに転向したり、メダルが期待されながらオリンピックではそれに届かなかったりという経歴があるせいか、氏のアドバイスはアスリートにありがちの居丈高なところがなく、本書の「はじめに」のところで書かれているのだが、自分の役割は

「世の中を変える」ことではなくて、「物の見方を変える」ということではないか

とされているせいか、そのアドバイスの数々も、相談者を導いたり、啓蒙するといったスタンスではなく、共に考える、少し前方から教えてくれるという立ち位置で、心にすっと入ってくるところが筆者の人柄というものであろう。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1部 為末大の悩み相談室
Ⅰ 面倒くさい自分との付き合い方
Ⅱ 困った人たちとの付き合い方
Ⅲ 家族の悩み、お金の悩み
Ⅳ 職場の人間関係
Ⅴ キャリアの問題
第2部 意味を求めない生き方
【特別対談 みうらじゅん☓為末大】

となっていて、ネットによる読者からの多岐な分野に渡る相談事への回答篇が第一部、「ゆるキャラ」なの流行語をつくるなど時代のトレンドのメイキング・リーダーともいえる「みうらじゅん」氏との対談が第二部となっている。

まず第一部の「悩み相談室」は目次でもわかるように、人間関係のついてのあやゆる側面からの相談事で、例えばメンタル本の自分を大事にするということは手抜きやサボったりすることではないのか、といった質問からこだわりのある保育園を子供のために選んだが、その教育方針が先鋭的で後悔している母親、いじめやモラハラの横行する職場で悩んでいるサービス業の男性とか、悩みの種類も多様であれば、悩む人の層も多様で、まさに日本の「悩み」の坩堝(るつぼ)をどう始末するのか、といった風情すらある。

これに対する氏の答えの数々は、冒頭の「物の見方を変える」のが自分の役目というように、熱すぎず、冷たすぎす、程よいレベルで「淡々」としたものが多く、例えば病弱な夫を抱えいるが前向きになるコツを聞いてくる女性に対しては

幸せってつまるところ落差だと思うんです。どこを基準に考えるかで感じ方が変わる。「ある」ことを当たり前だと思うか「ない」ことを当たり前に思うか。現実も、現実に対する認識も簡単には変わらないと思いますが、少なくともそういう考え方もあるということをときどき思い出してみていただければと思います。

という回答であったり、憧れの仕事があるが行動が起こせないと悩む40代になった男性には

四二歳でご家族もいらっしゃるわけですね。だったらとりあえず小分けにしてチャレンジしてみてはいかがでしょうか。すべてを投げ打ってチヤレンジするのではなくて、僕はこの小分けチャレンジはけっこう実践的だと思っています。
(略)
四十代になってドカーンと逆転ホームランとかいうのではなくて、これまでやってこなかったことを少しずつ始めてみるといったほうが現実的です。とにかく始めることが大事です。

といったところに、肩に無駄な力を入れない、「為末流」の人生への向き合い方が垣間見える。

ただ一見「諦観」に満ちた答えと見えても、底流にあるのは、数多くの「勝負」の揉まれてながら実績を残してアスリートのしたたかな経験に基づいていて、

世間の動向に一喜一憂し、モチベーションが上下する。
何度かそういう経験を経て、世間と距離をとり、淡々とやり続けていくほうが目的が達成されやすいということを僕は学んだ

であるとか

世界一になろうとすれば時間とそれからそのほかの資源も足りなさすぎるからいちいち目の前の勝負にこだわつていられなくて、使えるものは何でも使っていくしかないという感覚が強くなる。
視点の低さは害が多い

といったあたりは、「勝負師」としての一面が現れてますね。

第二部の対談は、それぞれの分野で図抜けてい二人の対談で、まあみうらじゅんさんの語り口もあるのか、自由に広がっていく話が続くので、ついていくのが精一杯になるかもしれないが、興味をそそられるところを拾い読みしても、「こういう考え方もあるのか」といった斬新な気持ちが味合えます。

【レビュアーから一言】

世界のトップランナーとの実力差をきちんと把握しながら競技してきたアスリートはけして「勝負しない」人ではなくて、様々な勝負のやり方が出来る人である。アスリートといえば現役時代は言うに及ばず引退後も「勝ち負け」を優先すると思いがちなんであるが

引退後の世界では、別に相手に勝たなくても結果として価値を生み出していれば認められる。敵チームと組んでもいいし、自分が主役でなくてもいい。最初は手柄を独り占めしようとする癖が抜けなかったけれど、あるときから人に得してもらおうと意識するようになった。そうしたら仕事が回り始めた。考えてみれば当たり前で、自分にいいことを持ってくる人を私たちは優遇する。

といったあたりは、誰にも訪れる第一線から退いたあたりの「勝負」のあり方として新鮮でありました。

逃げる自由 〈諦める力2〉

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この本は2019.6.31現在、AmazonのKindle unlimitedでも提供されてますね。

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