カンパニアの地震からプリニウスは助かるが、ローマの闇はもっと深くなる ー ヤマザキマリ、とり・みき「プリニウス 4」

前巻でローマの悪い空気を避けて、南方で旅に出たプリニウス一行は、カンパニアで、温泉が急に湧いたり、羊が大量死したり、といった現象に出逢い不審に思っていたところ、ポンペイで大地震に見舞われるのが今巻のはじまり。

水道が壊れて水を求めて多くの人が争ったり、肉親が瓦礫の下になって呆然としている人があふれていたり、と災害の被害は昔も今とかわらず相当なものであるのだが、商売を続けるために近くの宿屋とそこにいるロバや馬を独占しようとする毛織物商人といった風景はちょっと今では想像もできないところであろう。

【構成と注目ポイント】

構成は

22.ポンペイ
23.ポッツォラーナ
24.レムレース
25.ディオニソス
26.オクタウィア
27.キリスト
28.マレフィカ

となっていて、前半の「レムレース」のところまでは、その災害の中でのプリニウス一行が難儀している姿が描かれる。毛織物業者にあやうく捕まりそうになるところを逃れることができたのは幸運であるのだが、再びローマへ逆戻りの旅である。

後半の「ディオニソス」からは、災害現場から離れて、この物語のもう一方の主人公であるローマの「ネロ」の周辺の話。カンパニアの地震復興があるのに、建設中の競技場の完成を急がせる、ネロ・ポッパエア夫婦の姿に、今後のローマの災難を見るようである。しかも、地震の復興を優先すべき、と諫言する親衛隊長・ブッルスに憤慨して、彼の毒殺を企むポッパエアは「悪女の典型」といった描かれ方をされてます。

ちなみに、こういう女性に命を狙われた、ネロの正妃・オクタヴィアが助からないのは無理もないですね。もっとも、オクタヴィアを殺害した後、こんな「呪い人形」をしかけられて怯えるところは彼女も「人の子」であったということでしょうか。

再後半の「キリスト」以降は、ローマ帝国の版図が広がり、属州各地から多くの人が多数流入してくるのだが、

というあたりに、今と変わらぬ「移民問題」の姿を見るようですね。こういったローマに住む属州民や他民族が増えていったことが、ローマ帝国がゆっくりと衰退していく原因でもあったように言われていたと思うのだが。まだローマ大火も起きていないときで、まだまだ「大ローマ」は健在でありますね。

【レビュアーから一言】

エトナやカンパニアで災害は起きるのだが、ローマでは帝国内で災害がおきようがどうしようが、権力争いが引き続き盛んであるところに、あちこちを旅して人間の愚かさが身にしみているプリニウスが憤慨するのも無理はない。彼がローマに嫌がるのは、体調のこともあるのだが、物理的ではない「首都」の空気のせいもあるのだろう。
ただ、こんなふうに毒づくのだが

反乱を起こそうとしたり、反皇帝の政治的な動きをしないところが、プリニウスのプリニウスらしいところであるようですね。

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