居酒屋の三世代経営者が絵師の失踪事件の秘密を解き明かす ー 有馬美季子「はないちもんめ」(祥伝社文庫)

 

文政時代の日本橋の居酒屋の女将・お園が自慢の料理と少しばかりのおせっかいで、市中の事件の謎を解いていく「縄のれん 福寿」をおくり出した筆者が、今回は祖母、母親、娘の三世代で切り盛りする料理屋「はないちもんめ」を舞台に、江戸の市中の事件を解決していく物語がこの「はないちもんめ」シリーズ。メインキャストとなるのは、この店の三代、祖母の「お紋」、母親「お市」、娘「お花」に、京都で修行をしていた通いの板前の「目三郎」の四人で、これをあわせて「はないちもんめ」という語呂合わせである。そして、お紋、お市はすでに亭主と死別、お花はまだ未婚ということで、それぞれに個性もあるが遠慮はなし、ただし、それぞれに秘密は抱えているという騒がしい女所帯が舞台となっている。

 

「はないちもんめ」のある場所は「北紺屋町」で八丁堀の同心たちの役宅の近く、現在の八重洲二丁目、京橋三丁目のあたりである。第一巻の時代設定は、文政五年(1822年)となっているので、「縄のれん 福寿」と同じ頃となっている。この時代は、ちょうど寛政の改革と天保の改革の間で、「化政文化」華やかなりし時で、緊縮ムードはほとんどないので、料理や生活も派手になっていた反面、貧しい者はその分悲哀も一層強かったであろう時代ですね。

 

 

【収録と注目ポイント】

 

収録は

 

第一話 賑やか鮪丼
第二話 ねぎまの引き札
第三話 料理かるた
第四話 ふっくら稲荷寿司
第五話 作れない饅頭
第六話 暖かな白雪糕

 

となっていて、それぞれが一話完結ではあるが、追い剥ぎと絵師の「光則」の失踪事件の解決が全体を通しての謎解きになっている。

 

第一話は、本シリーズの最初とあって、キャスト紹介のところが多いのだが、本筋のところは、この店の新たな看板メニューの作成。はじめは鯰の蒲焼きが第一候補であったのだが、お紋が鯰が暴れるので地震がくるとデマを飛ばして失敗。次の豆腐の蒲焼は、お市にライバル心を燃やしている幼馴染が豆腐屋をけしかけて値段をつりあげさせられて、これも断念。最後に選んだのは、当時、「下魚」と言われていた「鮪」を使った「ねぎま鍋と鮪の佃煮をふりかけた「鮪丼」という筋立てで、「ねぎま鍋」はおなじみながら、「鮪丼」のほうは

 

鮪の佃煮は、醤油・味醂・酒を煮立たせ、それに細かく切ったまぐろ・擦り下ろした生姜・山椒の実を加え、煮汁がなくなるまで煮詰めてつくる。それを御飯に乗せれば、鮪丼の出来上がりだ。

 

といった仕上がりである。この話で、今巻の謎解きの主要人物となる絵師の「光則」が登場しますね。

 

第二話の「ねぎまの引き札」は、前話の店の名物メニューの宣伝チラシをお花が巻いているうちに、貧しい家の男の子と出会い、実は彼は「お紋」の幼馴染の孫で、といった展開。第三話の「料理かるた」は宣伝チラシが数がそんなに撒けないために、話題作りでつくった「料理カルタ」のお披露目会と後日談。このあたりは、第一話で紹介しきれなかったキャストの紹介と、お紋とお市の秘密をちょっと暴露といったところが目的ですかね。

 

第四話の「ふっくら稲荷寿司」は、チラシ配りをしている「お花」が昔の男に付きまとわれる話。お花は以前、結構遊んでいたらしいのだが、今は「玉ノ井座」という見世物小屋で、「お光太夫」という名で軽業を演じているのだが、描写をみるとポールダンスの江戸時代版のような感じでとても色っぽいのでありますねー。タイトルの謂れは、お花の昔の彼氏の「年雄」が最近出入りしている武州で流行っている、と言うところによっているのだが、江戸ではまだ流行していないという設定ですね。

 

第五話では、最近、「はないちもんめ」の常連となってきていた「光則」が突然の失踪。彼の住処には、黄金色と鼠色をした平べったい饅頭のようなものが描かれた絵が残されていた。その裏には、その饅頭のレシピのようなものも書かれているのだが、そのとおり作ってみても絵のような饅頭ができない。彼はその絵で何をメッセージとして残そうとしたのか、というところで、ネタバレのヒントは、その饅頭に描かれた「違い鷹の羽」という武州忍藩を治める「阿部」家の家紋と「光則」が惚れていた芸妓の身請けの経費の捻出方法、そして松茸を使った「偽鮑」といったところですね。

 

第六話の「暖かな白雪糕」は今巻の謎の最終解決。光則が関わってきた犯罪の黒幕退治に「お市」がその美魔女ぶりを最大限に発揮するのだが、完全な囮操作でありますね。そして、追い剥ぎのほうもあっけなく正体が判明するのだが、詳細は原書で。

 

【レビュワーから一言】

 

この作者の特徴として、最初から中盤あたりまでは、あれやこれやと周辺の話やら料理談義やらが続いて、いつ本当の謎解きにいくんだ、とちょっとイラついてしまうところもあるのだが、そこはどうやら筆者の手の内で、知らないうちに事件の鍵が忍ばせてあったりするので要注意ですね。

 

今回は、光則が摺師だけでなく「絵師」として腕も立つといったところが妙に強調されるな、と思っていたらそこがポイントでありましたね。

 

さて、今巻きで、お紋、お市、お花のそれぞれが互いに隠している秘密は読者の前に明らかになったのだが、それがどう使われるかは次巻以降のお楽しみですかね。

 

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