「お園」は疾走した夫の謎を追い、東京の西半分を旅する ー 有馬美季子「出立ちの膳 縄のれん福寿3」

江戸は文政の頃、日本橋小舟町で15人くらい入れば一杯になる、小さな料理屋を営む女将「お園」を主人公にした、人情時代小説の第3弾。

数年前に失踪したままになっている、お園の亭主・清次失踪の理由が明らかになるとともに、清次の行方を追って、多摩地方へと捜索の旅を続けるのが、今巻『有馬美季子「出立ちの膳 縄のれん福寿3」(祥伝社文庫)』。
捜査旅行に同行する吉之進との仲がどう進展するかも、こうご期待ですな。

【構成と注目ポイント】

構成は

お通し 謎の食材表
一品目 和みの食
二品目 白い思い出
三品目 繋ぐ葉
四品目 折れない心
五品目 家族の味
六品目 出立ちの膳

となっていて、まずは「お園」が灌仏会の花祭りの帰り道に、男たち数人に襲われるところからスタート。

幼馴染みの元同心で寺子屋師匠をしている吉之進に助けられるのだが、その時、失踪しているお園の亭主・清次らしい人物も、彼女を救うために現れて、男たちと闘い始める。闘いの末、逃げ出した男たちを追っていくとき、清次らしき人物が落としていった紙切れに書いてあった、食材を記した紙の謎を解いていく、っていうのがおおまかな筋立て。

その紙切れに書いてあったのは
壱 真桑瓜
弐 蕎麦粉
参 粟
肆 鮎
伍 のらぼう菜
陸 イネつる芋
という食材で、1〜4までは今でもおなじみだが、5と6はあまり全国的な野菜ではない。この紙片に書かれた食材の謎を解いていけば、清次の謎と行方に結びつくのでは、お園が調査に乗り出すこと決め、吉之進が用心棒替わりに付き添っていく、と進んでいく。

で、調査の最初は「真桑瓜」。「真桑瓜の素麺」を出すという店の話を聞き、その店のある内藤新宿に行くと、宿屋の女中の自殺騒動に巻き込まれ・・・、といった具合で、「真桑瓜」の新宿から、調布、府中、青梅、五日市を経て、「イネつる芋」の檜原村まで、東京を西へと移動しながら、料理の腕を活かしながら、地元でおきている様々な揉め事を解決していく。そして最後に、ようやく失踪中の亭主・清次に出会うことに成功するのだが・・・といった展開である。

紙片の食材の謎解きのメインは、亭主・清次のことではなく、筏師の頭領をしていた彼の父親・征義の地元での業績や、彼を慕っていた人々の話であるとかであるのだが、読むに従って、時代小説でもあまり舞台として登場することのない「東京都の西半分」の地理や風俗にふれることが出来て、ちょっと変わった味合いがありますね。

物語の最後のほうで、失踪中の亭主・清次に出会って、お園、吉之進といったこのシリーズのメインキャストの人間関係がどうなるか気になるところなのだが、筆者は、色恋沙汰をコテコテ書くのが面倒くさい性格なのか、あっさりと決着をつけてしまうのだが、そこは原書で確認してください。

【レビュアーから一言】

今巻の本筋とはちょっとはずれた読みどころは、変わった料理や江戸野菜がでてくるところで、例えば、「真桑瓜」は

ほそ長く切られた真桑瓜と胡瓜、みょうがが茹でた素麺にたっぷりろ掛けられている。それを汁につけて食べるのだ。素麺には山葵も添えられていた。

といった形で登場するし、東京都の西多摩あたりで栽培されている「のらぼう菜」や、江戸時代に伝わった古いタイプのじゃがいもで急峻な地形の桧原村で栽培される「イネつる芋」とか、「知らなかった江戸」が味わえるのも今巻の魅力ですね。

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