母親の行方探しを契機に成長する「少年」の物語 ー 有馬美季子「さくら餅 縄のれん福寿 2」

日本橋小舟町の居酒屋「福寿」の女主人・お園を主人公にした人情時代もの「縄のれん福寿」シリーズの第2弾。

前巻では、福寿の前に行き倒れていた娘・お里を助け、店の2階に泊めたところから、連続火付け事件の真相へと話が展開していったのだが、今巻も、店の2階でやっかいになる人物の手伝いをするというもので、筋立てとしては前巻と同じ。今回、福寿の2階に住むのは「鈴本連太郎」という少年で、もとの実家は高遠藩の藩士であったのだが、父親が藩の重臣を襲った罪で家は取り潰しになり、今は庄屋の家の養子となっている。彼の母親は父親が死んだ後、家を出て行方知れずになっていて、今回江戸へ母親を探しに来た、といういきさつである。

時代的には「文政6年(1823年)」の設定になっていて、連太郎の故郷の「高遠藩」は第七代藩主の内藤頼寧(ないとう、よりやす)というお殿様が家督を継いで3年目のあたり。このお殿様は産物会所をつくって産業奨励をしたり、藩直営の桑園経営などけっこう斬新的なことをやっていて、百姓一揆とかはあったにせよ、若年寄まで務めた名君と言われる人であったらしい。文政3年ごろに農民に御用金を課す制度の創設で騒動が起き、郡代が処分されている事件はあるのだが、本書とは余り関係ないようで、高遠藩のお家騒動というような展開は期待しないでくださいね。

【構成と注目ポイント】

構成は

お通し 春告魚
一品目 故郷の味
二品目 かまくら菓子
三品目 雪花菜の噺
四品目 彩り寿司
五品目 旅立ちの桜餅

となっていて、福寿の2階に厄介になる「連太郎」の母親「千鶴」は、代官の家の出身であるのだが、実家はすでになくなっている。彼女は、地元・高遠でも「寒椿」に似た「美女」で有名で、しかも、三味線とかの芸事も上手という設定で、高遠藩の関係者が江戸・深川でみかけたというあたりで「さては」といった妄想をたくましくさせてしまいますね。

話のほうは、深川あたりで見かけたという情報をもとに、連太郎の従者・勘助の「千鶴」探しに、お園も協力するのだが、調べていくうちに、彼女は江戸へ出て深川で売れっ子の芸者となった後、身請けされて世帯をもったのだが、亭主に先立たれて、といったこともわかってくる。一家が離散し、母親が江戸へ家でしたのは、亡くなった父親のせいだ、と恨みをもっている連太郎にどう伝えるのか、そして、母親の千鶴は今どこにいるのか・・、といった展開をしていきます。

事件らしい事件は起きず、捕物帳というよりは、雪女のように雪道をさまよう大店の娘とか、寺子屋でいじめられているお咲という女の子を助けたりといった出来事を通じて、実父憎し、養父母への恩はあまり感じていないという「連太郎」少年がいかに変化していったかの成長物語、という感じですね。

読後感は悪くはないが、バトルシーンや謎解きを期待して読むとがっかりしてしまうかもしれないので、そこはご注意を。文化文政という江戸の庶民文化がもっとも息づいた時の、江戸庶民の生活を切り取れば、といった風に読むとよいかもしれません。

【レビュアーから一言】

物語の最初の方で、日本橋の豪商が地域を賑やかにするために行う「大食い大会」のシーンがあるのだが、今巻で「福寿」が出したお題は「五平餅」の大食いで、優勝者は五平餅40本超を食べたといったところがあるのだが、江戸の「大食い大会」というのはこのレベルではなかったようで、この物語の6年前の文政14年に開かれた柳橋の料亭「万八楼」で開かれた大会では、それぞれの部門の優勝者が食った量が、

菓子の部:饅頭50個、羊羹7竿、薄皮もち30個、お茶19杯
飯の部:ごはん68杯、醤油2合Mbr>そばの部:二八蕎麦63杯

といった記録が残っているので、今巻の大食いはまだまだ修行がいるね、といったところでありましょうか。

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