ギャルソンとソムリエそれぞれの「親子のこじらせ」が絶品料理で溶けていく ー 斎藤千輪「ビストロ三軒亭の奇跡の宴」

東京は世田谷・三軒茶屋のメニューのないオーダーメイド・ビストロである「三軒亭」を舞台に、いかつい顔でオネエ言葉の店のオーナー兼ソムリエ・室田重、元医大生の知性溢れるメガネ男子・藤野正輝、元サッカー選手だったスポーツマン・岩崎陽介というギャルソン二人、そして、灰色の頭脳・エルキュール・ポアロのファンで、抜群の料理と推理の腕を披露するシェフ・伊勢隆一たちとともに、元俳優志望で、俳優の途を断念したのは、なんとか振り切ったものの、未だにどこを目指そうかうろうろしている新米ギャルソン・神坂恵隆一を主人公に、店に、持ち込まれる様々な謎や揉め事を「料理」と「ワイン」をつかって解決していく、ちょっと洒落た都会派ミステリー「ビストロ三軒亭」シリースの第3弾が『斎藤千輪「ビストロ三軒亭の奇跡の宴」(角川文庫)』である。

前作までで、主人公の隆一、ギャルソンの一人・陽介、シェフの伊勢のそれぞれの「こじらせ」がなんとか快方に向かったのを受けて、ソムリエの室田、ギャルソンの正輝の「こじらせ」がどうなるのか、が描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
1 un fruit 〜アン・フリュイ〜
2 Pho 〜フォー〜
3 Creape Suzette 〜クレープシュゼット〜
エピローグ

となっていて、まずはプロローグのところで、伊勢の恋人「マドカ」の愛犬「エル」を彼女に代わって飼っていた「浅井小百合」が来店し、メインの「秋サバのポアレ」を賞味しているところからスタート。
マドカの近況がわかった前巻をおさらいしながら、今のところ、伊勢と彼女の再会がいずれあることと、本巻での三軒亭におきる大事件(ネタバレすると、室田の入院)を暗示する出だしである。

 

第一話の「un fruit 〜アン・フリュイ〜」はその大事件が起きるちょっと前の話。二十代半ばの女性二人が「メイン食材に必ずフルーツが入る料理のコース」を注文し店へやってくるのだが、品定めをするように店内の様子をメモしたり、スマホで撮影したりという不審な行動をする。さらに料理がくると、手帳にメモをとりながら、料理の品定めをしたり、食材について詳しく聞いたり、という様子。
実は彼女たちは外食チェーンの社員で、夏のフルーツフェアの新メニューの企画を練っていて、その取材に三軒亭にもやってきていたのだが、彼女たちの前に立ちはだかるのが、社内の上司で、男尊女卑、権威主義の塊といった人物。一週間後に、その上司たちと三軒亭を訪れ、彼女たちが食べたフルコースを推薦するのだが、街の小さなビストロの料理で、女性の推薦ということで、理由もなく却下した上にさんざん三軒亭の料理を貶す態度に、「イラッ」ときた隆一たちは、彼女たちとリベンジを企画するのだが・・・、という展開。
登場する上司が、ゴリゴリの女性軽視、上司にはおべっかの「嫌な上司」のステロタイプ的な人なのだが、こういうのがガツンと凹まされるのは何度読んでも楽しいな。
この話の最後のほうで、室田が倒れて入院します。飲み過ぎで「肝臓」をやられた、という設定です。室田の代打は、知識該博な正輝が務めることとなりますね。たしかに陽介や隆一ではワインの名前も覚えきらんだろうな。

第二話の「Pho 〜フォー〜」は、室田の入院先で、彼の離婚歴や娘のことなど、彼の「こじらせ」が明らかになります。
本編のほうは、児童劇団に属してアイドルやスター俳優を目指す男の子・女の子とその母親たちの「ママ友会」が三軒亭で開かれるのだが、そのパーティーでの出来事。パーティーには店の常連のスタイル抜群のマダム・伏見アリサと息子で中学二年生の「信太郎」、同じく常連の小柄で若々しい川崎結衣と息子の中学一年生の空人というメンバーが企画したらしいのだが、この男の子二人は、ライバル関係にあるらしく、先だってアイドルグループのオーディションを受けてきたところ。その結果が、このパーティーの最中にでも連絡があるというのだから、まあトラブル必至の設定ですね。
若干ピリピリする感じの中で、信太郎くんだけは、ずっとイアホンで何かを聞いていたり、ビュッフェ形式の料理の中で「フォー」をおかわりして、しかも大きな音をたてて啜るといった妙な行動をとっている。
そして、オーディションの結果が、信太郎が選ばれたという連絡が入る。ところが、彼は「アイドルにはならない」と母親に宣言する。果たして彼の真意は・・・といった展開です。
謎解きには、信太郎の奇行や話の途中ででてくるオーディション関係者が落としたメモの謎とかが絡まり合いますので、丁寧に読んでくださいね。

最終話の「Creape Suzette 〜クレープシュゼット〜」は、ギャルソン仲間の藤野正輝の「こじらせ」の解決。
正輝は、中規模の総合病院の院長の一人息子で、彼自身、医者の跡を継ぐために医学部に進学したのだが、動物実験が嫌で嫌で医大を中退。その時に、父親から家を追い出され、絶縁状態が続いているという状況である。
そんな彼の父親と母親が、三軒亭にやってくる。どうやら、父親との関係修復を狙って母親が無理やり連れてきたようなのだが、いきなり父親が「ゴッホにちなんだ料理」を出してほしいと難題を出します。料理のほうは、凄腕の「伊勢」の采配で、「ひまわり」「エ海老とムール貝」をイメージした”ムール貝のサフランスープ・カプチーノ仕立て”であるとか「仰向けの蟹」「じゃがいもを食べつる人々」をモチーフにした”ソフトシェルクラブの素揚げとじゃがいもの塩ゆで オランデーズソース添え”といったところで感心させるのだが、ワインのほうは俄仕込みの正輝のサーブなので、なかなかうまくいかない。しかも正輝の父親は彼を試すようなことを言って、正輝が萎縮するばかり。
見かねた母親が口を出したために、夫婦喧嘩が始まり、怒った父親はコースの途中なのに退席して、という最悪な展開である。
さて、この父・息子の関係を修復するために、ギャルソン仲間の陽介と隆一が一肌脱ぐことに、といった展開。さてどうしたかは、原書のほうで。

そして、最終話の最後で、ソムリエの室田の「こじらせ」もさっくりと解決してしまいます。さらに、次巻以降の新展開を伺わせるところもあって、にんまりする結末となってます。
もし今、落ち込んだ気分であれば、社会悪や時代のやりきれなさを見せる「いやミス」より、このシリーズのような大団円につながる「ほんわかミステリー」が、オススメでありますね。

【レビュアーから一言】

このシリーズの魅力は、登場人物に本当の悪人はいなくて、悩みながらも前へ向かって進んでいくところが、落ち込む心を癒やしてくれるのですが、もう一つの魅力はなんといっても、話の随所にでてくる料理の数々。
たとえば、レビューの中で最初で紹介した”秋サバのポワレ”は

皮目をカリッと香ばしく焼いた秋サバ。ソースは粒マスタードをほんのりときかせたヴァンブラン(白ワイン)ソース。そのサバをグルリと囲むように、 松茸 と栗のソテーが彩っている。

といった様子であるし

正輝の両親に出されるゴッホ・フレンチの一つ、”ムール貝のサフランスープ・カプチーノ仕立て”は

紫がかった黒い貝殻に中に、ぷっくりと鎮座するオレンジ色の貝の身。フレンチでもお馴染みのムール貝が、黄色いスープの上にたっぷりと盛られ、小さな黄色い花びらが振りかけられている。黄色い花びらは、丸い深皿の縁にも点々と並ぶ。伊勢がスープで湿らせて一枚一枚飾ったものだ

 

という逸品。このほかにも、思わず唾を飲み込んでしまう料理が満載であるので、残りは原書で賞味してくださいな。


ビストロ三軒亭の奇跡の宴 (角川文庫)
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