茶人依頼の「椿の上絵」のおかげで律の腕前が急上昇 ー 知野みさき「雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖 3」

江戸の神田相生町に住む、女性の上絵師・律を主人公にして、彼女の絵師としての成長と、彼女が描く「似面絵」(似顔絵)を手がかりに、幼馴染の葉茶屋の跡取り息子・涼太とともに、もちこまれる様々な事件を解決していく「上絵師 律」シリーズの第三巻が本巻『知野みさき「雪華燃ゆ 上絵師 律の似面絵帖 3」(光文社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 春の兆し
第二章 姉探し
第三章 消えた茶人
第四章 雪華燃ゆ

となっていて、本巻では各章ごとの似面絵を役立てた犯人探しのほかに、律が仕事をもらっている池見屋のお得意である金持ちで茶人の雪永から出された難題の解決が、全体を貫く仕立てとなっている。

その雪永からの依頼というのは、雪永が世話をしている若い女性・千恵に「椿」の柄の着物を贈りたい、ということで律がその上絵をてがけるというもの。ただ、何度書き直しても、その女性の了解がもらえないという状況。どうやら、その女性は池見屋の女将・類の妹で、雪永が囲っているわけではないらしい、という何やら曰くがありそうである。

第一章の「春の兆し」の犯人探しのほうは、律の住む長屋の大家・又兵衛がもちこんでくる結婚詐欺の似面絵。騙されたのは。又兵衛位の知り合いの大家・泰助の管理する花房町の長屋に住む「お勢」という女性。彼女は洗濯屋の手伝いをして生計をたてているのだが、彼女のなけなしの蓄えをだまし取ったのが、「将太」という男。その男を町で見つけた率は後をつけようとするが、その時、律の幼馴染に惚れていて、律を恋敵としてライバル心を燃やしている浅草の大料亭「尾上」の娘・綾乃と出会い、二人して、その男の居場所を掴むことに成功する。その結果を、知り合いの同心・広瀬や、男に騙された「お勢」に伝えるのだが、なんと、お勢は・・・という展開

第二章の「姉探し」は菓子屋に奉公にでている律の弟・慶太が、「おせん」という女性を連れて長屋にやってくる。彼女は最近、奉公のために江戸へ出てきたのだが、8年前に浅草の旅籠に奉公にでた姉を訪ねたところ、その姉は一年前に、その旅籠を辞めて行方知れず。姉を探すために、似面絵を描いてほしいという依頼である。一見、可愛そうな話なのだが、巽屋という旅籠に入った強盗の似面絵とそっくりの男と、そのおせんが待ち合わせをしていたのを涼太が目撃したあたりから、違う方向へ展開していく。

まあ、その「おせん」の容貌が

年の頃は十八、九。鼻梁の整った美人で、着物は利休鼠の袷も御納戸茶色の帯と地味だが、それがかえってほのかな色香を醸し出している。

と言った感じなので、慶太が手玉にとられるのも無理はありません。

第三章の「消えた茶人」は、涼太の生家・青陽堂の主人(涼太の父親ですね)・清次郎が吉原に遊びにいったきり帰ってこない行方不明事件の解決。涼太の生家の茶問屋は、家付き娘であった、涼太の母親が経営の実権を握っていたせいで、父親の清次郎は影が薄い状態。ひょっとすると、キツい奥さんに嫌気が差して、どこかの女と駆け落ちでも・・といった筋立てです。

最終章の「雪華燃ゆ」は、品川宿の女郎屋・菱屋の、涼太の馴染みの女郎・雪音の話。律のことを思って、雪音に手を出さない涼太に対して、彼女は、最近、郷里の幼馴染が兄弟子に連れられて、偶然遊びにきたと打ち明ける。彼女はもうすぐ牛込の料亭の主人・英一郎に身請けされる予定なのだが、この男が金のあることを笠に着る嫌な奴なんである。そんな雪音が足抜けをして、行方をくらます。律は彼女を連れ出した疑いのかかる、その幼馴染の似面絵を仕上げるのだが、そこにはある工夫をして・・・という展開です。ここで見せる律の機転が見事です。

で、全編通じた、千恵の着物の柄の決着と千恵の秘密のところは、原書でどうぞ。

【レビュアーからひと言】

律が雪永に頼まれて描く着物の絵柄が「椿」なのですが、この椿の花は、ぽとりと花がおちる様が、切腹して首を落とされる様を思い浮かべるので、武家には嫌われていた、という話がある一方、そのすっぱりと落ちる様子が潔いとして実は好まれていた、という真逆の話がある花。
江戸時代の演芸ブームの中で、200種に及ぶ品種が育成されていたということので、本当のところは後者のような気がしますね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました