”人情話”と”イタリア料理”をセットでどうぞ ー 斎藤千輪「トラットリア代官山」

東京で一、二を争うお洒落な街である代官山の住宅地。三階建ての一軒家の地下にあるカウンターが中心の小さなイタリアレストランを舞台に、店の女性支配人の大須薫とシェフの安東玲、常連客の工藤親子をメインキャストにくりひろげられる、”都会風人情話”が本書『斎藤千輪「トラットリア代官山」(ハルキ文庫)』。

店の支配人の薫は、父親が創業していた「トラットリア代官山」を引き継いで、パートナーの真守と店を切り盛りしていたのだが、イタリアへ料理修行に行くといって渡欧したっきり連絡がとれない状況。そこで店のほうは、ある時転がり込んできた、元板前の怜と二人で店をやっている、という設定ですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

Prologo(序幕)
Uno(1) 京都の鴨ナス〜カフェ経営者・永野鈴音の物語〜
Inermezzo Uno(幕間1)
Dos(2) 和牛入りライスコロッケ〜ウェブサイト研修者・工藤ルカの物語〜
Inermezzo Dos(幕間2)
Tre(3) 黄金色のそうめんカボチャ〜名リスト・片桐桜の物語〜
Inermezzo Tre(幕間3)
Quattro(4) 甘美なるシェリー酒〜女支配人・大須薫の物語〜
Epilogo(終幕)

となっていて「プロローグ」で、彼女の誕生日を祝うための東京へやってきたカップルが、ネットで調べたこの店で、「誕生日のお祝い」をと訪れるのだが、予約していなくては入れないという事態に取り乱す彼氏に、普段はやっていないランチ営業をしてあげる、といったところで人情話が開幕します。

まず第一章は、中目黒でサンドイッチ・ショップを経営している「永野鈴音」という女性と、彼女の昔の同僚であった「朝倉綾乃」という女性の間の長年の「不和」が溶けていく話。

鈴音はもともと、数年前に事故死した売れっ子ギタリストであった「リョウ」というシンガーソングライターのサポート奏者を、綾乃は彼のマネージャーをやっていたのだが、鈴音は一度「リョウ」と一夜をともにしそうになったが、仕事仲間とはそういう関係になれないと拒絶された後、彼のマンションから、彼のTシャツを着た綾乃がでてくるのを見かけたという苦い思い出をもっている。一方で、綾乃のほうは、鈴音がリョウのゴーストライターをやっているという疑惑を払しょくできないまま、リョウの死後、疎遠になっている、という間柄である。そういう二人が、リョウの思い出アルバムをつくりたいという音楽プロモーターの企画から、再び出会うことになり、「トラットリア代官山」で食事をとって打ち合わせをするが、その時の「わだかまり」が復活して・・、という展開である。この二人の仲を修復するのは、綾乃の子どものものであるらしい、幼児用のドリルなのだが、実はそれは忘れ物ではなくて・・といった筋立てが、ほんわりとさせてしまいます。ゴーストライター疑惑とリョウと綾乃の関係の真相は原書のほうで。

第二章は、店の常連客の工藤徹の記憶喪失と、彼の愛犬のラブラドール犬・レオに関する話。
実は、ひと月前から、レオが行方不明になっていて、それ以来、工藤が落ち込んだままになっているのを娘のルカと薫。怜たちも心配している状況である。レオがいなくなった時、、工藤は自宅の屋上から落ちて脳震盪を起こしており、そこのあたりの記憶がすっぽり抜け落ちている。その記憶が戻れば、レオの行方の手がかりもつかめるかも、ということなのだが、記憶の復活もレオの行方も一向に進展しない、といった状況である。
父親の落ち込みを心配した娘のルカはレオの代わりとなるラブラドールを二匹見つけてくるのだが、レオに忠義立てをして工藤は受け入れようとしない。実は、レオの失踪にはある秘密が隠れていて・・という展開。

第三章は店に背伸びしてやってきた片桐桜というネイリストの女の子の話。
彼女は、今、つきあおうとつぃている彼氏のデートで行く店の下見に、トラッタリアにやってきたということなのだが、ここで彼の勤める宝石店から購入した指輪についていたサファイアを落としてしまう。幸い、この宝石は店の前の階段で見つかるのだがが、この騒ぎがおさまった後、彼女のネイル店の同僚・メイサも、彼から宝石を買っており、今度、大々的な宝石のセールに招待された、というSNSがはいり・・・、という展開。最初は二股かけている彼氏をどうとっちめるか、という話で動くのだが、それではおさまらない犯罪の臭いがプンプンしてくる展開になってきます。

第四章は、この「トラットリア代官山」の支配人・薫とシェフ・怜の今後についての話。
薫のパートナーだった真守がイタリアへ料理修行に行ってからずいぶん時間が経過して、薫と怜の関係性も変わってくるか、といったところが話の肝ですね。それぞれの章の間に挿入される「幕間」で語られる二人の関係の最終まとめと明日、という感じですね。

【レビュアーからひと言】

この作者の作品の魅力は、「ビストロ三軒亭」にも共通しているように、登場人物の多くが温かく、彼れが展開する”人情話”にほっこりできるところと併せて、話中に挿入される料理の数々だろう。それは例えば、

メニューに”サマートリュフ、グリーンアスパラガス、タヤリン”と明記されていたパスタ料理は、卵黄のみで練った手切りパスタ”タヤリン”を茹でて、オリーブオイルとバターで和え、その上にサマートリュフとパルミジャーノチーズをたっぷり載せた逸品。鮮やかな緑のアスパラガスが、シンプルな料理のアクセントになっている。
薫がパスタの上にすりおろそてくれたサマートリュフは、皮の色こそ黒いが黒トリュフほどの強い香りではなく、コクのあるタヤリンの味を潰さずに引き立てる、同じく薫るがすり下ろしたパルミジャーノチーズが、縮れ気味の黄色い麺にまとわりつき、トリュフと共に食した瞬間の感動は格別だった。

といった感じで、本書の場合は、おもわずイタリア料理を、グルメ検索サイトで探してしまうぐらいなので、セットでお楽しみくださいね。

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