イタリア料理はイタリア人の「ソウルフード」 ー ヤマザキマリ「パスタぎらい」

「テルマエロマエ」や「プリニウス」をはじめとして、イタリアを舞台にした漫画で有名な「ヤマザキマリ」さんなのだが、はっきりとモノをいうことでも、定評があると思っている。
本書でも、それは遺憾なく発揮されていて。その舌鋒は自分が長らく住んでいる「イタリア」に対しても容赦なく

「美食国家」と言われるイタリアだが、なぜかこの国のパンはあまり美味しくない

と「美味いものはうまい、不味いものはまずい」というあたりに、本書の「正直さ」を感じるるのは私だけではないはず。

そんな筆者が、イタリア、そして日本の「食」について記したエッセイが本書『ヤマザキマリ「パスタぎらい」(新潮新書)』。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 イタリア暮らしですが、なにか?
 Ⅰ 貧乏パスタ
 Ⅱ イタリアのパンの実力
 Ⅲ トマトと果物が苦手です
 Ⅳ コーヒーが飲めません
第二章 あなた恋しい日本食
 Ⅰ ラーメンが「ソウル・フード」
 Ⅱ 世界の”SUSHI”
 Ⅲ 日本の「洋食」とはケチャップである
 Ⅳ 憧れのお弁当
 Ⅴ にぎりめし考
 Ⅵ キング・オブ・珍味
 Ⅶ スナック菓子バンザイ
第三章 それでも歌リアは美味しい
 Ⅰ 「万能の液体」オリーブ・オイル
 Ⅱ 酸っぱいだけじゃない!
 Ⅲ 優しいスタミナ食
 Ⅳ 深淵なるモツのこと
 Ⅴ 臨終ポルティーニ
 Ⅵ ジェラートとイタリア男
 Ⅵ クリスマスの風物詩
第四章 私の偏愛食
 Ⅰ 思い込んだらソーセージ
 Ⅱ 私の”肉欲”
 Ⅲ パサパサか、ドロドロか
 Ⅳ たまご愛
 Ⅴ シチリア島で餃子を頬張る
 Ⅵ 串刺しハングリー
 Ⅶ 世界の「病人食」
第五章 世界をつなぐ胃袋
 Ⅰ ワインとナショナリズム
 Ⅱ チーズと寛容
 Ⅲ ミラノ万博取材記
 Ⅳ 胃袋の外交力
あとがき

となっていて、イタリアに長らく住んでいた筆者の食べ物エッセイなのだから、さぞかし名店やグルメの数々がと思っていたら、筆者はイタリアで貧乏絵描きと一緒になったり、かなり苦労をしてきているせいか

たまたまテレビ局のプロデューサーとイタリア料理店で食事をする機会があり、私がニンニク、塩コショウ、鷹の八をオリーブ・オイルで和えただけのシンプルな一品「アーリオ・オリオ・工・ペペロンテーノ」スパゲッティを頼んだ。これは、日本における「素うどん」と言ってもいいポジションのスパゲッティで、私がフイレンツェでいつ野垂れ死にしてもおかしくないほど貧乏な暮らしをしていた時代に、おそらく最も高い頻度で食べていた料理である。

といった感じであったり、

私が食べたくて仕方のなくなるパスタは、ケチャップを使った和製のナポリタンやタラコのソース、または納豆を使ったような、いわゆる「和風スパゲッティ」である。

と、「イタリア料理」「イタ飯」の”気位の高さ”を、ぐっと身近なところへひきよせてくれるのはあり難い。ひょっとするとフランス料理やイタリア料理の旨さというのは

結局、世界のどんな食べ物でも、外からやつてくる人に美味しいと思われるのは、その土地の人間がふだん気軽に口にしている庶民のソウル・フードに尽きるのかもしれない

というところに秘密があるのかもしれないですね。
さらに、こうしたソウルフードは調味料にも当てはまっていて

イタリアではその家庭それぞれにオリーブ・オイルヘのこだわりというのが強くあり、どこのものでもいいということは決してない。
例えば醤油にしても、決して全ての料理に使う訳ではない。
しかしオリープ・オイルに関しては、あらゆるィタリアの食事にとつて必要不可欠なものなのだ。パスタでもスープでも調理の段階で用いるだけではなく、食べる直前にも、さらにオリープ・オイルを上から垂らす。

といったことで、案外、こうしたことを疎かにするか尊重するかで、国と国との関係が疎遠になる遠因や戦争の原因になっているかもしれないですね。ただ、

考えてみれば胃袋というのは、人間の身体の中でも特にナイープな臓器である。精神的なダメージがあるとストレートにその影響を受け易い。メンタルと胃はしっかりと繋がっているのだ。
食べることに積極的なイタリアの人たちが、食文化に対しては開かれた外交力を発揮できないのは、デリケートな胃にはなるべく過度な負担をかけないのが無難という、長きにわたる歴史から学んだ結果なのかもしれない。

といったところを読むと、食文化の革新性と保守性のバランスの難しさと言ったことを感じてしまいます。世界平和の実現はなかなかに難しいようだ。

このほかにも、日本のおにぎりに対するイタリア人の反応とか、日本の洗浄装置付き便座が便利だとヨーロッパ人から評価されても普及しないヨーロッパの水道事情など、雑談Tipsもたくさんありますので、原書のほうでお楽しみを。

【レビュアーから一言】

本書では、普通のグルメ本ではあまり紹介されることのない、各地の具合が悪い時の病人食の紹介で、フランスの「コンソメスープとピンク色の大きなハム」であったり、イタリアの「「プロート」と呼ばれるコンソメスープと「パスティーナ」という小さなパスタをいれたもの」、ポルトガルやギリシア、アメリカでは共通して「チキンスープ」といった豆知識のほかに

どうも人間というのは、かつて自分が弱っている時に食べたり食べさせられたりしたものを、健康な時にも食べることで「自分を癒したい」と思う傾向があるのかもしれない。
もちろん年齢的なものもあるのだろうけど、そう考えると「病人食」というのは、日々を生きる人々にも大きな影響力を与える食事とも言える

といったところには含蓄と「滋味」を感じますね。

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