配下の濡れ衣を晴らすため、廃墟の魔女が”表”へ出現 ー 相沢沙呼「マツリカ・マトリョシカ」

相沢沙呼

学校近くの廃ビルに住んでいる、と自称する「S系」の美少女・マツリカと、彼女のパシリとして買い物をさせられたり、「学園の怪異」を調査させられている「柴犬」こと「柴山祐希」の二人が、学園におきる不思議な事件を解決していく、学園アームチェア・ディクティティブ・ミステリーの第3弾がこの『相沢沙呼「マツリカ・マトリョシカ」(角川文庫)』。

前巻までで、マツリカさんの無茶な命令に従いながら、学校で自殺した作曲家志望の女子生徒の亡霊譚の謎をはじめ校内でおこる数々の不思議や謎を解き明かすうちに、姉の突然の死に向き合い始めた「祐希」であったのだが、今回は、その過程でできた、写真部やクラスの仲間たちと、二年前に起きた、女子生徒の狂言傷害事件の謎と、今回起きる「制服盗難事件」の謎をといていく筋立てです。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 開かずの扉の胡蝶さん
第二章 犯人はあなたなんですか?(松本まりかの推理)
第三章 謎はすべて解けた(柴山祐希の推理)
第四章 解けないならばそれしかない(三ノ輪部長の推理)
第五章 流しそうめん大作戦(高梨千智の推理)
第六章 疑心暗鬼が駆け巡る(村木翔子の推理)
第七章 僕にできる、ただ一つのこと
第八章 再び、柴山祐希の推理
第九章 廃墟の魔女による解明
第十章 呪詛と祝福

となっていて、第二巻まで、柴山くんを明るくリードしてきてくれていた写真部の「小西菜穂」さんは、マツリカさんが自殺した女子生徒の亡霊ではないか、と疑い、彼女が消えてしまうことを嘆いてメソメソ。クヨクヨしているのを「すげーきらいだからッ、チョーきらいッ」と駄目だしされてせいもあって、巻の最後のほうまで没交渉。その代わり、今回、彼を優しくサポート(?)してくれるのは、同い年ではあるが保健室登校で留年している「松本まりか」ちゃんですね。彼女は柴山のことを「ゆうくん」と呼んでいて、ほわんとした温かみのある女の子ですね。

ただ、今回、柴山とともに謎解きのパートナーとなるのは、美術部の一年生・春日麻衣子という女子生徒です。彼女とは、マツリカさんの命令で女子テニス部の天井に出るという「顔の染み女」という怪談を調査中に知り合うのですが、彼女の協力で深夜に部室に忍び込むのですが、帰り道に「開かずの扉」があって普通は出入りできない「美術準備室」に灯りがつくのを目撃します。

で、この部室内での調査を行った翌日、このテニス部の部長で学園内でも有名な美人・七里観月の制服が盗み出され、いつも鍵がかかっていて出入りができない「美術準備室」の中にあるトルソーに着せられ、そのトルソーの周囲には青いチョウの市街が散らばっていた、という怪事件がおきます。

この事件は、二年前に「開かずの扉」の向こうの美術準備室で、女子生徒が血を流して倒れていいるのが発見され、彼女の周囲に青いチョウの標本が散らばっているのが発見されたという事件との関連性をうかがわせています。さて。今回の事件と二年前の事件の関連性は、そして、「顔の染み女」調査中にテニス部の周辺をうろついていたり、さらには、深夜の調査の時に落とした携帯のストラップを発見されたことで、犯人にされてしまうかもしれない柴木くんの運命は・・・とういう展開です。

今回は、小西さんとは前巻で気まずい仲になっている上に、巻の途中でマツリカさんに暴挙をしかけそうになったことで、二人に協力を求まられないまま、写真部の松本まりかちゃんや高梨千智、クラスメイトの村木翔子など前巻までで親しくなったメンバーと推理を進めていくことになるのですが、なかなか解決までは至りません。
結局、和解した小西さんのアシストで、マツリカさんに謝罪し助けを求めるのですが、柴山くんが犯人に祭り上げられそうになっている場面での

「七里観月さんの制服をー」
盗みました。

そういい終えるか終えないかの瞬間だった。
唐突に、凄まじい衝突音がした。乱雑な勢いで戸が開け放たれた音なのだと理解した。突拍子もなく開け放たれた戸へ、全員が驚いて視線を向けていた。

「残念だけれど、現代密室における謎は、既に解明されている。」
(略)
彼女は臆面もなく美術室に足を踏み入れると、悠々と室内を横断しながら、こう言った。
「では、そこで口を開けて呆けている飼い犬に代わって、わたしが真相を開示しましょう」
全員が唖然とする中、廃墟の魔女による解明が、唐突に始まった。

といった登場は、まさに圧巻でありますので、本書のほうでお楽しみください。

【レビュアーから一言】

この「マツリカ」シリーズの謎解きの特徴は、謎の解明にそれまで「柴山祐希」の側で一緒になって調査をしていた人物が突然、その隠された姿を顕にしてくるのと、学校内で人気もあり慕われていた生徒が、その裏の顔を暴かれる、という急変のところにあるのですが、今巻もいままでとかわらない驚きを見せてくれる結末となってます。

さらに、今巻の終盤で、今まで廃ビルの中にいて人前に出てこなかった「マツリカ」さんが、写真部のメンバーたちを始めとする公衆の面前の姿を表すことになるにですが、これが今後のシリーズでどう展開するか愉しみなところではありますね。

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