女性マジシャンの得意技は、別れた友人間の修復 ー 相沢沙呼「ロートケプシェン、こっちにおいで」

相沢沙呼

他人を寄せ付けない雰囲気の髪が長い可憐な美少女で、マジシャンでもある「酉乃初」と、彼女を好きなのだが言い出せない、ヘタレの冴えない少年「須川」くんが、クラスメートで友達百人を目指す「織田」さんや、引っ込み思案の図書委員・慶永さん、演劇部の脚本家・三好や、学校一の美少女で演劇部のヒロイン・八反丸芹華たちと学園生活の陰に隠れた「謎」を解き明かしていく学園ミステリーの第2弾。

前作では、学園に伝わる、作曲家死亡だった少女の幽霊譚の秘密を解き明かすとともに、先輩の自殺と同級生の自殺教唆を防いだ「初」と「須川」くんだったのだが、今回は、学園内で評判になったことが原因で同級生からハブられて起きた登校拒否になった少女とその原因となった女子生徒の和解に乗り出します。
表題の「ロートケプシェン」はあの「赤ずきん」のことで、登校拒否になった女子生徒が教室の黒板に書き残した「赤ずきんは、狼に食べられた」という言葉の謎解きに紐付けされてますね。

【収録と注目ポイント】

収録は

「アウトオブサイトじゃ伝わらない」
「ひとりよがりのデリュージョン」
「恋のおまじないのチンク・アンク」
「スペルバウンドに気をつけて」
「ひびくリンキング・リング」

となっていて、全話にわたって、「トモ」という女子生徒の、かつての友人「ユカ」への謝罪の想いが綴られる「Red Back」と、本編の「初」や「須川くん」や「織田(おりた)さん」の物語が展開される「Blue Bkac」の二部構成で進められていきます。

第一話の「アウトオブサイトじゃ伝わらない」は、クラスメートの「織田さん」から、先輩たちとの「カラオケ」につきあわされた、「須川くん」がカラオケ終了後にに皆で寄ったマックで、「織田さん」が急に不機嫌になって帰ってしまった原因を、「初」に解き明かしてもらう話。高校生らしい苦い恋バナに切なくなってしまいますね。この話で「織田さん」の失恋を慰めるために「初」のバイト先につれていき、彼女のマジックの特技がだんだんと知れ渡ってきます。

第二話の「ひとりよがりのデリュージョン」では、学校の調理実習室で以前、親指を切り落としてしまった生徒がいて、その指を見た、という女子生徒・笹本さんから須川くんが、この謎解きを依頼されるところからスタート。もっともこの話は本題ではなく、今巻を通じた謎につながる、書いた小説が人気になったためにかえって妬まれてクラスの支配生徒から睨まれて、登校拒否になってしまった「井上さん」という女子生徒のエピソードを引き出すための前振りのようですね。
本筋の謎解きは、須川くんが三好から借りた「写真集」を入れた封筒が、廊下で笹本さんにぶつかったときに、彼女がもっていた封筒と入れ替わってしまって、その奪還を図るのですが、どこかに消えてしまう、というものです。謎のほうは「初」が解いてくれるのですが、「写真集」には彼女の不興をかってしまいますね。

第三話の「恋のおまじないのチンク・アンク」は、高校生や中学生時代の大イベント「バレンタインデー」に関するお話。バレンタインデーでクラスの男子生徒に贈られたチョコレートが、全校集会で皆が教室を空ににしているすきに、すべて集められて教壇の上に置かれている、という事件が発生します。女子生徒同士が交換し合ったチョコはそのままに、男子生徒のものだけが集まれらた理由は、そして犯人は?というものですね。名前を秘してチョコレートを贈る「乙女心」がリリカルでよいですね。
ちなみに、今回、「須川くん」は、なんと学年一の美女・八反丸芹華からバレンタイン・チョコを贈られます。しかし、それには強烈な「爆弾」が仕掛けられていて・・という筋立てです。

第四話の「スペルバウンドに気をつけて」と第五話の「ひびくリンキング・リング」では、いよいよ、井上さんが不登校になった原因の詳細や、「Red Back」として語られている話のキャストが誰なのか、ということが明らかになるとともに、彼女たちの「酉乃初」による「救済」が展開されていくことになります。さらに、井上さんが不登校になった「小説」の本当の作者もわかってきて、ということでドンデン返しの続く筋展開を楽しんでくださいね。

【レビュアーから一言】

今巻でも、「酉乃初」のバイトするサンドリヨンのマスターのマジックのテクニックを使った格言は健在です。マジシャンが失敗して、でもホントは成功っていうパターンのマジックの総称を「サカートリック」というそうなのですが、本文中の

マジックをしているときに、マジシャンである自分自身が、いちばん騙されて利運じゃないかー。そう思うときって、ありませんか。
(略)
サカートリックのとき、お客さんはマジシャンの失敗を指摘しないことがほとんどです。明らかな失敗でも、黙って見ていてくれます。わたしは、それに気付かないで得意になって

という「マジシャンの憂鬱」は、自分の力を過信して、ドヤ顔になりそうな時に、思い出したいところでありますね。

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