学園ミステリーの主役は「S」系の美少女探偵 ー 相沢沙呼「マツリカ・マジョルカ」

相沢沙呼

学園ミステリーの登場人物というのは、切れ味のいい推理力を誇る変わり者の探偵役に、少々ドジではあるが憎めない助手役というのがお決まりのパターンなのだが、本書のように「腰のあたりまでまっすぐに伸びた黒髪」で

その凛々しい横書をは、同年代の女の子が持っている無邪気さとは遠く隔たったもののように見えた。冷たく落ち着いた黒い瞳で、じっと僕のことを観察している。

といった様子で、初対面の「僕」に、「お前、名前は?」と行った口調で話しかけてくる美少女の探偵役が登場するのは、デビュー作「午前三時でサンドリヨン」で美少女の女子高生マジシャン・酉之初を生み出した筆者らしいスタイル。
そんな「S」系美少女探偵・マツリカが、平凡で目立たない男子生徒・柴山祐希がもちこんでくる、学校内の奇妙な怪奇ネタの隠された真相を解き明かす、アームチェア・ディクティティブもの「マツリカ」シリーズの第一弾が本書「マツリカ・マジョリカ」です。

【収録と注目ポイント】

収録は

「原始人ランナウェイ」
「幽鬼的テレスコープ」
「いたずらディスガイズ」
「さよならメランコリア」

となっていて、第一話の「原始人ランナウェイ」は、「僕」こと「柴山祐希」が学校近くの5階建ての雑居ビルにいる本シリーズの美少女の様子を自殺と間違えて入り込むのだが、彼女の子分に組み入れられ、放課後に学校に現れるという「原始人探し」を命じられる、という始まり。この美少女は「マツリカ」と名乗り、柴山と同じ学校の生徒だが、学校には出席せず、学校の教師や生徒を「観察」しているということになってます。

で、この「原始人」というのが、この頃に教育実習にきていた卒業生たちが在校していた頃にでた噂らしく、夏の暑い時、校舎裏を原始人が、全力疾走で大声を出しながら走って消えていったのを見た、という男子生徒たちの間の噂です。実際に、」その原始人が見つかってどうこう、というものではなく、よくある「学校の怪談」の一つかと思われてのですが、その噂の陰にある真相を「マツリカ」が明らかにするのですが・・・、という展開です。実習生の卒業生の中の男性の一人が、その原始人の噂をひどく嫌がっている、というのが謎解きのヒントで、闇に消えた「イジメ」を連想される筋立てです。

第二話の「幽鬼的テレスコープ」は、第一話で、「僕」が知り合いになった同じくらいの小西さんという写真部の女子生徒と、学校の裏山で行われる「肝試し」に参加した時に出くわす怪異です。この裏山では、昔、ここで乱暴されて片目を潰され自殺した女子生徒の幽霊が出るという噂があって、これをネタに、男女ペアで肝試しをするというイベントが毎年開催されているのですが、もちろんお化け役は学校の上級生がセットして下級生を驚かす、というまあ、一種の学校の通過儀礼のようなものですね。
ところが、この肝試しの際に、セットしていないはずの「女の子の泣き声が聞こえる」仕掛けが増えてるとか、ゴールした証拠としてチェックポイントからもってくるはずの「御札」が一組足りないとか、予定していないことが起きます。さて、この怪異の陰には何が・・・といった展開です。参加者の一人のかわいい女子生徒につきまとっている男子生徒がいて、といったところが「泣き声」のヒントになるのですが、この男子生徒も「片目の少女」を見た、と怯えているようなので滅多なことはおきてはいないと信じたいですね。「片目の少女」の正体の仕掛けは、本書のほうで確認してください。

第三話の「いたずらディスガイズ」は、学校の文化祭でのハプニングです。「僕」の所属するクラスの隣のクラスは、演劇を出し物としているのですが、その演劇の主役が着る「アリスの衣装」が行方不明になり、その行方を、同級生の「小西」さんに頼まれた「僕」が一肌脱ぐことなります。この衣装は、「僕」のクラスの女子生徒と共同の着替え室においてあって、失くなったときには誰も出入りしていないはずです。
そのうち、学校内のクラブハウスで「アリスの衣装」を来た女の子を見つけるのですが・・・、という展開です。

第四話の「さよならメランコリア」は、クラスに馴染めない。と疎外感を持っている「僕」の秘密が明らかになる話です。彼は、中学三年生のときに不登校になったことがあって、その頃から疎外感をいだき始め、高校に進学してからもその傾向が続いています。姉とは仲が良いようなので、家庭が荒れているというわけでもなさそうです。ある時、「僕」は姉の高校の卒業アルバムから、姉の写真が切り取られているのを発見します。なぜ、切り取られたのか、そして切り取ったのは誰か、「マツリカ」さんに謎解きを頼むのですが・・・、といった展開です。

出かけることがキライな「マツリカ」と「僕」がメインキャストなので、目立ったアクションシーンやドタバタはないのですが、「僕」の報告のあと、静かの謎解きを始める「マツリカ」の様子はとても高校三年生とは思えない、老獪さを感じます。

【レビュアーから一言】

「マツリカ」から「おまえ」「柴犬」よばわりされて、ケーキやトマトジュースの買い出しに行かされる「パシリ」扱いをされている「僕」なのですが、「マツリカ」のシャワーシーンですとか、雨に濡れて制服を脱いで毛布にくるまってのうたた寝状態ですとか、かなり際どいところに妙に出くわします。もちろん、そんなときは

「おまえ、なにを想像しているのか、容易に把握できる顔をしているわね」

ってな調子でこっぴどく叱られてしまうわけなのですが、叱っている「マツリカ」ちゃんを想像して、嬉しくなってしまう男性陣は多いのではないでしょうか。

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