高校生の女性マジシャン「酉乃初」登場 ー 相沢沙呼「午前零時のサンドリヨン」

相沢沙呼

「マツリカ・マジョルカ」ほかで、「S」系美少女の安楽椅子探偵「マツリカ」と、彼女の大ファンでパシリ的役割を果たす「柴犬」こと「柴山祐希」が学園内におきる謎の数々を解いていく「マツリカ」シリーズの作者・相沢沙呼のデビュー作がこの『「午前零時のサンドリヨン」(創元推理文庫)』。

物語のキャストは、探偵役をつとめる美少女と、イケてない男子高校生で、「マツリカ」と同じなのだが、本作は、人付き合いの苦手なマジシャンである女子高生が、自分の傷も抱えながら、学園の謎を解明していく、という筋立てです。

【収録と注目ポイント】

収録は

「空回りトライアンフ」
「胸中カード・スタッフ」
「あてにならないプレディクタ」
「あなたのためのワイルド・カード」

となっていて、第一話目は、今シリーズのヒロイン・酉乃初に、帰宅部でヒッキーの傾向のある「僕」こと「須川」くんがレストラン・バーで彼女が店のアルバイト兼マジシャンとして勤めているところからスタート。彼女は

ほとんど笑うことのない、どことなく冷たい雰囲気の女の子。
長い睫毛の下、いつも雲を見え詰めているその瞳は物思いに沈んでいて、けれど、知的な輝きを宿している。背まで届く黒髪は柔らかそうで、思わず触れてみたくなぐらいだ。綺麗な子だと思う。けれど、あまり他人を寄せ付けない雰囲気のせいだろうか。友達が少ないみたいだった。彼女、けっこうクールなんだよね。どことなく教室でも)浮いているっていうか・・・

といったような存在で、よくある学園ものミステリーのように、風変わりながら学園内である程度の影響力をもった探偵役とは程遠い感じですね。

で、第一話の話のほうは、図書室で、書架の三段目の雑誌がおさめられているところが、一冊だけ正しい方向に収められていて、それ以外は全部逆に収納されている場面に遭遇する、という出だし。二人は、クラスの図書委員・慶永裕美に事情を聞くことを始めるのだが・・・といった展開。この書架は移動式になっていて、書架を移動した先に血で汚れた指先で、背板と床の秋だを引っ掻いたような後と、書架の間に入り込んでしまっている紙片を見つけるのですが、これが図書室内での「イジメ」事件の行き着くこととなりますね。この物語で、酉乃が、マジシャンとしての能力を活用して学園内の謎解き役としてデビューするとともに、慶永裕美が、酉乃と須川の協力メンバーとして加わることになりますね。

第二話の「胸中カード・スタッフ」では、クラスメイトの慶永のイジメを解決したおかげで、慶永の属する図書委員の先輩・瑠璃垣と彼女の友人のピアニスト志望で音大受験を目指している「柏」さんと知り合いになります。今話の謎解きは、この柏さんがピアノの練習中、部屋を少し空けたスキに机の上につけられた「f」が3つ刻まれていた、という事件から始まります。これをきっかけに、「柏」さんの精神がプツンと切れてしまって、音大を諦めてしまいそうになったりとかのトラブルがおきるのですが、さて「酉乃初」が見抜いた真相と推理の詳細は原書で読んでくださいね。この話で、作曲家を目指していた「藤井綾香」という女子生徒の幽霊の話とか、第一話ででてきた慶永さんが引き続きイジメにあっている場面とか、今話ででてくる瑠璃垣さんの的確ではあるが冷酷な忠告とか、「藤井綾香」の幽霊譚の真相に関わってくる断片がでてくるので注意しておいてくださいね。

第三話の「あてにならないプレディクタ」では、女子生徒の間で「よく当たる占い」をしていて「霊感がある」とされている「飯倉静香」という女子生徒が登場します。須川くんは、彼女が落とした手帳に、英語のテストの成績を記したメモがあることを見つけるのですが、その手帳は落とし物として職員室に保管されていて、成績の情報が公開されたときには彼女の手元にはない状態でした。さて、情報公開までに彼女はそれをどう知ったのか、というところが謎の始まりです。

そして、「飯倉静香」は第三話ででてきた「藤井綾香」の霊に教えてもらっているといっているのですが・・・という展開で、彼女の「占い」に、「酉乃初」がマジシャンのテクニックとの関連性を見出して、その仕掛けを明らかにしてくのですが、彼女の反発を受け・・といった感じで、今話で「初」はかなり落ち込んでしまうことになりますね。

最終話の「あなたのためのワイルド・カード」では、この学園で以前に自殺した「藤井綾香」からのメッセージが、学園の生徒同士の交流を目的とした掲示板に投稿されるところからスタートします。もちろん、死者が投稿できるわけはないので、これを投稿した人物が、学園内に最近出始めた「屋上の幽霊」のし掛け人では、ということで須川くんが調査に乗り出すのですが、推理の中心となる「酉井初」は前話で「飯倉」に批判されたことが原因で小心を閉ざしてしまっている、というピンチですね。

ここで大きな役割を果たすのが、演劇部員で学園一のアイドル・八反丸芹華です。幽霊なんかいないとドライな精神構造の持ち主の彼女は謎解きに動く「須川」くんをリードしていくのですが、実はそこには、彼女と「初」との過去の苦い出来事が絡んでいて・・という筋立てです。

さらに、最後の「藤井綾香」の幽霊の秘密が明らかになるところでは、今巻で出てくるメインキャストのとんでもない秘密が出現してくるのでお楽しみに、

【レビュアーから一言】

今巻の読みどころはボーイ・ミーツ・ガール的に、「酉乃初」に対する「須川」くんのいじましい、不器用なアクションの数々なのですが、それとあわせて「初」の披瀝する「マジック」に関する数々の話です。

事前に対象の素性や敬礼を調べておくテクニックである「ホットリーディング」や相手の何気ない仕草や癖から情報を引き出す「コールドリーディング」とか、カードを自在に操る技術であるフラリッシュを演じる「初」の姿に、彼女が勤めるレストラン・バー「サンドリヨン」のオーナー・十九波が

マジシャンに対する挑戦的な姿勢を恐れるのは、まさにトリックを見破られるかもしれないという恐怖があるからです。しかし、本当に自分の技術に)自信を持っていれば、他人の見方や評価を気にする必要はありません。どんなふうに見られたって、構わないはずです。
(略
それに・・・自分を信じないで、誰がマジシャンの魔法を信じてくれるでしょうか

といったあたりは、マジックの分野にとどまらない深みがありますね。

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