自粛の時の「旅心」には「旅の達人」の話が沁みるー下川裕治「シニアひとり旅 2」

新型コロナウィルスの感染流行によって、いろんな自粛が求められている今、以前から計画していた旅行やホームステイなどを急遽とりやめて不満が溜まっている人も多いのではないでしょうか。
そんなあなたにオススメなのが、バックパッカーや「沈没」と称された海外への長期滞在が始まった頃から「旅」をしてきた筆者が、自分の過去の「旅」を思い起こしながら。シニアなりの旅について考えてみた本書『下川裕治「シニアひとり旅 インド、ネパールからシルクロードへ」(平凡社新書)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 インドーこの地を踏まずに、ひとり旅は語れない
第2章 ネパールー再訪トレッキングの聖地へ
第3章 パキスタンー旅すればときは遡る
第4章 バングラデシュー支援と自立の狭間で
第5章 中央アジアー旧ソ連から独立した国々
第6章 シルクロードー交易を担ったソグド人の面影
第7章 新疆ウイグル自治区ーひとり旅だからこそみえるもの
終章 南・中央アジアへの旅で知っておきたいこと

となっていて、本書の旅の舞台は南アジアから中央アジアにかけての国々です。

こうした国々に、筆者は若い頃に、筆者のトレードマークになっている「貧乏旅行」をしていて、当時の体力にまかせた行動とか、その地の官憲ともめたり、タクシーや店のオッチャンやオバチャンにボラれたりといった経験が語られていくのですが、その若い頃の経験というのが、例えば、チベットのヒマラヤでのトレッキングでは

そこでガイドやポーターに誘導し、ポカラからはジープ。そして許可証。しかし僕は、それがバックパッカーの嗅覚なのか、路線バスに乗ってしまった。ガイドやポーターも雇っていない。許可証だけが浮いてしまうのだ
トレッキングはあまり金を使わない。山道を歩くわけだから、途中で金を落とす機会は少ない。ネパール政府は知恵を絞る。なんとか外国人からの収益を増やせないだろうか。

といった感じで、ルートをショートカットして、観光客になんとか金を落とさせようという地方政府の企画を台無しすることに象徴される「チベットの観光公害」であったり、新疆ウィグル地区での

鉄道の駅でのチェックはさらに厳しい。トルファン駅で列車に乗るときは、X線検査機、金属探知機、パスポートチェックをそれぞれ三同受けないと待合室に入ることができなかった。これだけでかなりの時間がかかる。駅には切符売り場があるが、そこに入るときも、このセキュリティーチェックを受けなくてはならない。
列車を降り、駅の敷地を出るときでさえセキュリティーチェックが行われることが多い

といった、現在まで続く「ウィグル問題」であったりと、かなり根深いものも含まれているあたりに「国際紛争の普遍性」みたいなものを感じますね。

そして、この若い頃の旅は、年齢を経てシニアになることによって、その意味を変えることにもなって、インドの旅で、チケットがなくても座席を専有するインド人乗客に対して
「絶対にどかせないとだめ。うろうろしていると、そこが彼らの席になっちゃうんです。インドは自己主張が優先される国だってことを肝に銘じないといけません」
と強硬な態度で席を明け渡すよう接していたものが

しかしインドは違った。同じように、多くの乗客をさばく際に、最終的に人に委ねるのだ。これがインドという国をわかりづらくさせていた。詰めがアバウトなのだ。そしてその緩みを巧みに使おうとする。
それはある種の優しさだとわかってきたのは、五十歳を過ぎてからだ。

といった感じであるし、置き引きやひったくりが多いと警戒されるバングラデシュについて

人の多さに辟易もするが、同時に守られている感覚もある、路上でスリや置き引きにあったとき、声を出せば、近くにいる見知らぬ人々が反応する。深夜に道を歩いていても、必ず誰かが見ている。いろんな国を歩いてきたが、スリや置き引きの類のち庵を、僕はそんなふうに考える。

といったように「悟り」っぽい方向に進んでいってしまうのは、「年齢(とし)」を取ることで尖っていたところが丸ーくなってしまったせいもあるのかもしれないですね。

最後の章のところではそれぞれの国を旅するときの交通手段やビザの問題、ホテルや宿泊先の確保の実際とかお役立ち情報が記載されているのですが、今回のコロナ自粛でかなりの変化が起きることが予測されます。いずれ自由に渡航できるようになるでしょうから、今からいろいろ情報収集やエピソードを集めておいたほうがいいですね。

【レビュアーから一言】

シニア向けに書かれた「旅のすすめ」ではあるのですが、筆者はバックパッカーの草分けのような人なので、筆者のほかの「旅の記録」を読んでおくと、時代の移り変わりや、その国の変化が感じられて楽しみ方が数倍します。最近では「週末」シリーズは、アジアが中心に様々な国の旅行記が出ているので興味のある国をピックアップしてみてはいかがでしょうか。

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