「スサノオ」や「わらしべ長者」を民俗学的に謎解きすればー北森鴻「触身仏」

北森鴻

美貌で明晰な頭脳をもちながら、民俗学会の異端児として扱われている蓮丈那智と、実直な研究者ではあるのだが、そのお人好し的な性格から、那智に振り回されてばかりいる蓮丈研究室の万年助手・内藤三國が、日本の歴史や習俗の中に隠された秘密を暴き出していく「蓮丈那智」シリーズの第2弾が『北森鴻「触身仏 蓮丈那智フィールドファイルⅡ」(新潮社)』。

【収録と注目ポイント】

収録は

「秘供養」
「大黒闇」
「死満瓊」
「触身仏」
「御䕃講」

の五話。

まず第一話の「秘供養」の舞台は、東北の山奥の崖に彫られた「五百羅漢像」にまつわる話。那智と内藤は、東北の山中につくられた、山人にさらわれた人々を供養する「五百羅漢」の調査をするのですが、那智が提示した謎は、なぜ供養の難しい山奥につくられたのか、となぜ風化する堆積岩につくられたのか、なぜ五百羅漢なのか、というもの。本来、非業の死をとげた者の供養であれば、供養がし辛いところにつくったり、いずれ風化して消えてしまう「岩」になぜ彫るのか、というものです。

内藤は、この那智からの謎が解けないうちに、那智の講義を取っている東条弥生という女子学生の焼死事件の犯人の容疑がかけられます。この女性はかなり男ずきのする人らしく、内藤が彼女に惚れたのだが冷たくされて犯行に及んだ、という嫌疑です。そして、彼女は、前述の「五百羅漢」のある村の出身で、この五百羅漢の謎についてのレポートを提出していたのですが、その中には彼女の不審死の謎をとく鍵が潜んでいて・・、という筋立てです。

第二話の「大黒闇」は古事記や出雲神話で有名な「大黒さま」と「スサノオノミコト」に関する話。この話が書かれた当時、新興宗教が全国の大学内で流行したことをヒントにしての設定ですね。その設定は、ある女子学生が、学内で流行っている新興宗教に入信したまま行方不明になっている兄をさがしてほしい、という依頼が内藤のところの持ち込まれてきます。その兄は、新興宗教の教祖がすすめる、高価な「仏像」を手に入れるために、その仏像の所有者である骨董商を殺した疑いがかけられています。その後、その兄も自殺しているのが発見されます。しかし、兄の自殺に不審をもった那智は、骨董商殺しにその宗教の教祖が絡んでいることを推理するのですが・・・、という展開です。

第三話の「死満瓊」では、那智が素人民俗学研究家の殺人犯の容疑をかけられることとなります。というのも、彼女は「三種の神器」についての斬新な論文を発表したその研究家の邸宅に、他の三人の新進気鋭の学者とともに招かれ、そこで開かれる勉強会に参加していたのですが、10日後、絞殺された、その研究者の死体と同じ車の中に、意識不明の状態でいるのが発見されたのが原因ですね。

仮に殺人を犯していなくても、もともと評判の良くない那智は、このスキャンダルで大学から追われてしまう危険性が高くなるのですが・・・、という展開です。ネタバレ的には、この素人研究家の論文で、自ら提唱している学説の根拠が危うくなり人物が犯人ですね。

第四話の「触身仏」は奥羽地方の小さな山村に伝わる「即身仏」が巻き起こす事件です。その村には明治の頃に「土中入定」したらしい即身仏が伝わっているのですが、これを町おこしに使うため、那智のところへ「由緒来歴」を調べてくれ、という依頼が入ります。那智はその即身仏を調べ、それがよくできた「作り物」であることを見破るのですが、これをヒントに、この村の近くの扇状地に隠された古代の謎を発見するのですが・・・、という展開です。

最終話の「御䕃講」では、観音様のおつげに従った「物々交換」で成り上がっていく「わらしべ長者伝説」が、神仏との約束事で定番となる「ギブアンドテイク」(つまり、何かを犠牲にしたり、諦めたりすることによって神様に願いをかなえてもらう、という構造ですね)の原則を無視しているところに疑念をいだき、実は、わらしべ長者が大成功した後、全体に対してある役割を果たすことがセットになっていて、という隠された秘密を引っ張り出してきます。ちょっとネタバレすると、「殺される王」と同じ構造ですね。

そして、事件のほうは、蓮丈研究室に新たにやってきた女性助手・佐江由美子がその前に所属していた研究室の過去の「論文アイデア貢物事件」の真相を暴き出すこととなるのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

【レビュアーから一言】

本書が刊行されたのが平成14年の頃なので、底本となっている社会的事件や生活の中のデバイスなどの小道具が古びてしまい、トリック面で「うーむ」というところがでてきてしまっている欠点はあるのですが、民俗学という道具によって、僕たちが何の疑問も持たずにいる昔話や習俗、伝承の中から、思ってもみなかった不気味な過去の真実が転がり出てくる、という魅力は損なわれていません。
そして、今巻でも、「大黒さま」や「三種の神器」、「わらしべ長者」など有名所の話の隠れた「真実」を楽しんでくださいね。

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