古典部メンバーは2年生となり「青春の苦味」を味わう

地方都市・神山市にあるそこそこの進学校・神山高校を舞台に、「やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことなら手短に」という「省エネ」的な生き方をモットーとするものぐさながら、推理力のひらめきをみせる折木奉太郎を主人公に、旧家で大農家のお嬢様・千反田える、広大な範囲への好奇心をもち、なんにでも首を突っ込む奉太郎の友人・福原里志、小学生なみの身長ながら人を射抜く言葉の強さはピカ一の漫画に情熱を注ぐ伊原摩耶花という四人の高校生をメインキャストに、神山高校や神山市でおきる「日常の謎」を解き明かしていく青春ミステリー・古典部シリーズの第5弾と第6弾が『米澤穂信「ふたりの距離の概算」(角川文庫)』と『米澤穂信「いまさら翼といわれても」(角川文庫)』です。

古典部の4人のメンバーも2年生となり、新一年生が入部するか、という古典部の未来の存続に関わる問題が発生するとともに、奉太郎が省エネ主義になったわけが判明したり、摩耶花とえるの大きな環境変化が描かれるのが今巻です。

【構成と注目ポイント】

◇「ふたりの距離の概算」の読みどころ◇

「ふたりの距離の概算」の構成は

序章 ただ走るには長すぎる
一章 入部受付はこちら
二章 友達は祝われなきゃいけない
三章 とても素敵なお店
四章 離した方が楽
五章 ふたりの距離の概算
六章 手はどこまでも伸びるはず

となっていて、最初は神山高校で恒例行事として開催されているマラソン大会「星ケ谷杯」のスタートシーンから始まります。文化祭の「カンヤ祭」や、この「星ケ谷杯」とか昔ながらの行事の多い高校ですね。今巻は、この全校あげて行われるマラソン大会に合間に、折木奉太郎が当初、いい感じだった新入部員候補の大日向が最終的に入部を断ってきた理由を推理する、という展開です。

もともとは、新入生の勧誘をする「新歓祭」で、ホータローや千反田の様子を見て、「仲のいいひと見てるのが一番幸せ」という動機で入部したのですが、千反田とのやり取りでなにか気に触ることがあったのが、千反田のことを「菩薩みたいな人だ」と評して入部を断ってきます。

さて、千反田のどんな行為が、彼女の入部取りやめを決断したのか・・・、というところが今巻のホータローの謎解きです。

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◇「いまさら翼といわれても」の読みどころ◇

「いまさら翼といわれても」の収録は

「箱の中の欠落」
「鏡には映らない」
「連峰は晴れているか」
「わたしたちの伝説の一冊」
「長い休日」
「いまさら翼といわれても」

となっていて、折木方太郎と千反田えるたちが高校2年生になっての「古典部」の様子が描かれます。

まず第一話の「箱の中の欠落」は、生徒会長選挙で、生徒の数より投票数が多くなっていた、という謎をホータローが解き明かします。この選挙にホータロー自体は何か役をしているわけではないのですが、開票の立会人となっていた、ホータローの親友・福部里志が、選挙管理委員長の暴挙を牽制するためにホータローに依頼してきた、というわけですね。その投票数水増しは、投票が行われる各クラスから開票を行う会議室の間で起きたと推測されるのですが、その方法は?、というところですね。

第二話の「鏡には映らない」は、ホータロー、里志、摩耶花の卒業した中学校の卒業制作に関する話です。この卒業制作に関しては、ホータローは学年中の不評を買っているのですが、それは学年全員が分担して鏡の周囲を飾る木のフレームを彫刻することになっていて、生徒が各班に別れ、ぶどうの鶴とか葉っぱとか小鳥とかを彫刻したのですが、ホータローは自分の班の分担を自分ひとりで引き受け、期限ぎりぎりの持ってきたのは、ただ横一線の「ツル」を彫ったものです。

時間がないので、ホータローのパーツを修正することもできず、鏡を飾る木のフレームを組み立てるのですが、このフレームをデザインした女子生徒が取り巻きたちとやってきて、フレームの一点を指差して絶句し、泣き出します。
これでホータローの評判は地に落ちたのですが、実は、これには隠された秘密があって、という展開です。単なるものぐさと思えたホータローの意外な一面がわかります。

第三話の「連峰は晴れているか」は、第二話と同じく、ホータローたちの中学生時代の話です。その中学に勤務している小木という英語教師がいたのですが、彼が突然、授業を中断して、中学校の上を飛行するヘリをずっと見ていた、ということがあったのですが、今までヘリコプターのことなど全く口にしたこともなかった彼がそんな行動をした理由は?、という謎解き。

第四話の「わたしたちの伝説の一冊」は、摩耶花の漫画研究会の脱会の真相。彼女は、1年生のときの「カンヤ祭」のときに、研究会内で先輩と対立してしまい(「クドリャフカの順番」参照)、それ以来、摩耶花の属する反主流派の「漫画を実作するグループ」と主流派の「実作しないで読んで楽しむグループ」の二つに研究会内部が割れてしまい、それぞれが相手を中傷するという内部抗争が過激化しています。

そんな折、摩耶花は、漫画を実作するグループの女子から同人誌を秘密裏につくって文化祭で出版し、それをきっかけに研究会の主導権を握ろうというクーデター計画に誘われます。それに加わるかどうか迷っているうちに計画が発覚し、摩耶花たちは主流派から吊し上げをくらいます。実は、その計画がバレて摩耶花たちが窮地に陥った陰には、文化祭で対立した河内亜也子先輩が糸を引いていたのですが、彼女は摩耶花を陥れようとしたのではなく、もっと壮大な野望があって・・、という筋立てです。

前作「ふたりの距離の概算」では、内部対立に疲れて退会した印象を与えていたのが、もっと深い理由があったことが判明します。

第五話の「長い休日」では、省エネを信条に「やらなくていいことなら、やらない・やらなければならないことなら手短に」をモットーとするホータローが、そういう行動スタイルになった理由が判明します。その発端は、彼が中学生のとき「校内環境係」となって、学校の花壇の世話をする役目をいいわたされてことにあったのですが・・というものです。省エネを信条としながら、頼まれれば面倒な謎解きを引き受けてくれる彼の哀しさが明らかになりますね。

最終話の「いまさら翼といわれても」は、千反田えるが参加している市民合唱団の発表会での出来事です。千反田はその発表会の出席のため、会場に早入りしているはずなのですが、いつの間にか行方不明になってしまいます。

彼女は、その発表会の一部のパートをソロで歌うことになっていて、重要な役割をもっているため、関係者は大騒ぎです。すこしのんびりしたところのある彼女なのですが、いつも「千反田家」の跡継ぎとしての自覚を表に出して行動している彼女が無責任にエスケープしたとは思えません。「える」と一緒に会場に来たという老女は、あと1時間後に姿を現すから、というのですが一向にその気配はなく、という展開です。

ちょっとネタバレすると、「1時間後」というのはバスの時刻が1時間おきになっているからで、ということは「える」は途中下車したことになるのですが・・・というのが謎解きのヒントです。

【レビュアーから一言】

古典部メンバーも2年生になったのですが、奉太郎と里志の男性二人は別として、摩耶花、えるの女性二人には、将来の人生設計に関係する大きな環境変化が起きてきます。
特に「いまさら翼といわれても」では千反田えるが今まで納得して自分の人生もそれにあわせて設計していたものががらっと変わってしまうので、このシリーズの今後の展開が読めなくなってしまいます。このシリーズの続刊はまだのようですが、筆者の手できちんと早めの決着をつけてほしいところです。

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