キングジム姉さんによる「企業アカウント」成長の物語ー「寄り添うツィッター」

「テプラ」や「キングファイル」といった定番の文具メーカーでありつつも、「ポメラ」といった機能をあえて制限した一風変わったヒット商品を定期的に送り出してくる「キングジム」の企業公式アカウントの担当者、通称「キングジム姉さん」による、企業アカウントの運営日誌が本書『キングジム公式ツイッター担当者「寄り添うツィッター わたしがキングジムで10年運営してわかった「つながる作法」」(KADOKAWA)』

もともと少々地味で、一般の企業広報の一環としてのイメージしかなかったツィッターの企業アカウントを、メディア広報と並ぶSNS広報の域まで引き上げた、キングジムのツィッター運用は、企業だけでなく、行政も含め、突然SNS広報に担当者にされて、泡を食っている新米広報マンたちの道標となりえる一冊です。

構成と注目ポイント

キングジムの企業SNSのはじまり

構成は

序章 社長が放った「鶴の一声」と「亀の一言」
 ーキングジム公式アカウント、いざ出航
第1章 「中の人」として最初に考えたこと
 ーキングジムが好きになってほしい
第2章 こんにちは「近所のキングジム」さんです。
 ーフォロワーと深くつながりたい
第3章 「キングジム」さんが「姉さん」になったわけ
 ーアカウントに「人格」」が生まれた
第4章 「広報×ツィッター」、二足のわらじの相乗効果
 ーPR担当者としての襟持
第5章 企業の垣根を超えた「つながり」
 ー想像もできない世界がまっていた。

となっていて、まず、キングジムの企業アカウントによるツィッターが始まったのは、同社の社長の「ツィッターって知ってる?」「会社としても積極的に発信をするべきだと思ってね。1週間後に「ポメラ」の新商品発表会があるから、それまでにキングジムのアカウント、立ち上げてよ」という無茶振りからのようで、このへんは、自分ごとのように感じられる企業SNSの担当者の方もいるのではないでしょうか。

企業SNSで留意しておくべきことは

で、このキングジムの担当の女性の「エライ」ところは、とにかく始めてしまうところなのですが、その際、彼女の考えたツィッター運営の注意点は

①親しみを醸成するには「生活者の気持ち」になる
②見る人々の気持ちに立って「役に立つ情報発信」をする
③感じをできるだけ「開く」
④専門用語には要注意
⑤文字量を押さえる。キングジムの場合は100字を上限としたそうです。

ということのようですが、このへんはプライベートなツィッターとはちょっと違うところで、企業SNS担当者には参考になるのでないでしょうか。

さらに、

最初のステップは「知ってもらうこと」
一方的に情報を発信しても話題にはならない。
生活者は発信者に共感を抱き、興味を持ち、徐々に信頼関係が築かれていくことで初めて「リツィート」や「いいね」というアクションにつながります。

といったところは、反応の鈍さの悩む担当者への励ましになるとともに、成果を急ぐ上司の皆さんへの戒めでもありますね。

ツィッターは売る「道具」ではない

また、

いわゆる「インスタ映え」を狙うなら、加工を重ねて作り込んだほうがいいのですが、ツィッターの場合は逆です。パッと撮ってパッと投稿したほうが、ツイッターのスピード感。臨場感にフィットします。
ひらたく言うと、手間をかけすぎないほうは「ツィッター映え」するのです

であったり、

ツィッターは「売るための」道具ではない、と私は考えています。
紹介した事例はすべて「コミュニケーションが盛んなツィッター上で発信したら、結果的に売れた」のであり、「売るために発信した」ということではないのです
(略)
売ることを目的にすると、短期的には成功するとしても、長期的にはデメリットが大きい、と。
なぜなら、そうした発信者の「色気」を、生活者は敏感に見抜くからです

といったあたりは、企業SNS担当者だけでなく、ブロガーの私も心せねば、と思った次第でありました。

このほか、「つぶやき」のヒントをどこで得ているか、とか、商品へのクレームを企業アカウントに向かってつぶやかれたり、リプライされたときの対応とか、実際の現場で苦労した経験に基づくアドバイスも載っているので、企業アカウントの運営担当者は一読しておいて損はない本だと思います。

レビュアーから一言

本書は、企業SNS草創期から、アカウントを育て、当時はまだまだマイナーだったSNSによる広報を、立派な広報手段として育て上げてきた関係者の手によるものなので、そのノウハウを知るだけでなく、一つのマーケティング手法が生まれ、育っていく様子がダイレクトに感じられる一冊になってます。特に「キングジム姉さん」という別称がついていくあたりや、他の企業アカウント関係者とのコラボ、特に井村屋さんとのかけあいのあたりは、自分がその場でみているような臨場感があるので、「ネット広報」の創生物語を読んでいるような感じもしてきます。

Bitly

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