情弱シニアほど読んでおきたいメタバース世界の案内書=バーチャル美少女ねむ「メタバース進化論ー仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界」

最近のデジタルやネットワーク系の流行語で、Z世代を中心とする若い世代とベビーブーマー世代とその少し下の世代とで、理解度と体験度が大きく違っているのが「暗号資産」と「メタバース」でしょう。

「暗号資産」についてのお話はまた別の機会に譲っておいて、今回とりあげるのは、リアル世界ではフツーの人として働きながら、”美少女”の姿のVtuberとして情報発信し、動画配信をしているとき以外も毎晩VRゴーグルを装着してメタバース世界で”暮らして”いる「バーチャル美少女ねむ」さんの著したメタバース世界の案内書『バーチャル美少女ねむ「メタバース進化論」(技術評論社)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第1章 メタバースとは何か
第2章 ソーシャルVRの世界
第3章 メタバースを支える技術
 インターミッション:忘却か、覚醒か
第4章 アイデンティティのコスプレ
第5章 コミュニケーションのコスプレ
第6章 経済のコスプレ
第7章 身体からの解放

となっていて、

第1章が、そもそもメタバースって何といったメタバースの由来や歴史、
第2章と第3章がメタバースを体現している「ソーシャルVR」とそれを提供している各種サービスとゴーグル・アバターといった技術面、
第4章から第6章が、メタバース世界における生活実態と文化・社会、そして経済面での可能性、
第7章がメタバースでのVR経験によって感じ始めた「身体感覚からの解放」について情報提供と解説を加える

といった内容になっています。なので、メタバース世界の土地で儲けようとか、メタバース世界のアイテムの作り方・売り方といったレポートとは異なるので、そういう投資目的の知識を求めている人は別のテキストを読んだ方がいいと思います。

メタバースってのは何者、という感じで基礎のところも皆目わかんねーぞ、という人は第1章から第3章のところで、基礎部分から知識や今ネットで提供されているサービスをざっくりと把握しておく必要があるのですが、そのうえで注目しておくべきは第4章から第6章で提示される「新しい世界」でしょう。

その一つはリアルの性別や外観とは別に、全く自由に属性を獲得できる「名前」「アバター」「声」の三つの軸によって体現される、人間を1つの分割不可能な「個人」としてではなく、分割可能な「分人」としてとして捉える新たな「人格観」(人間を分割可能な「分人」として捉える考え方。ひとりの人間の中にはいくつもの人格(分人)があり、その集合体が人間であると考える)で、筆者の行った「ソーシャルVR国勢調査」では、「「中の人」の物理性別に関係なく、物理男女共に8割弱が女性型アバターを使っている」となっていて、これもいわゆる変身願望だけで解決するよりも、「分人」願望のベクトルで理解したほうがいいのかもしれません。筆者によると

分人主義は本来、あくまで人間の多様な在り方を認める、21世紀にふさわしい新たなヒューマニズムを構想したものに過ぎませんでしだが、メタバースが登場した今、より重要な意味を持ち始めました。

ということで、「多様な自分」の再発見がメタバースで実現するような気がします。さらに、これは物理空間を超越するというメタバースの特徴によって増幅されていくのでしょうね。ちなみに、コロナ自粛下で流行した「ZOOM飲み」が一挙に廃れてしまった理由本書では、メタバースに関連して分析されていますね。

そして、この「分人主義」は第6章「経済のコスプレ」で、新しい経済活動の提案と予測に結びついていきます。アバターによって人々が仮想空間内で様々な活動をすることによて生じる「分人経済」として、アバターのファンションデザイナーやメタバース内の常設展示ワールドや交流スペースでの接客業であるとか、リアルでの「職業」がメタバース内で進化しているあたりは興味深いですね。特に「接客業」の進化系は、ICTによって人を相手にした職業がどんどん失われていく中での新しい提案です。

メタバース経済の議論というと、メタバース内の「土地」の転売やと土地貸しといった、「仮想不動産業」みたいなものが多数を占める中で、貴重な議論ですね。

このほか、メタバース内でのコミュニケーションや恋愛模様、ファントムセンスの話など、「メタバース世界」のあちこちが「現地人」によって解説されています。

メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界
Amazon.co.jp: メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界 eBook : バーチャル美少女ねむ: Kindleストア

レビュアーの一言

シニア層の大部分は、スマホでYoutubeやTikTokは見るけど、VRは・・という人がほとんだと思うのですが、ZOOMなどのバーチャル会議やリモートワークがあっという間に生活の中に組み込まれていったように、「メタバース」も気がついたら日常になっていたということになりそうな気がします。今のうちに、「テキスト」が中心のシニア層こそ、おっかなびっくりでもその世界を覗いておいたほうがいいと思うのですが、本書はその「旅行ガイドブック」としてうってつけだと思います。

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