通常のビジネスのやり方とか、ビジネスのネタ本と違ってネット関係のビジネスの話題となると、少し目を離しているとどんどん変化していく上に、カタカナが大量に出てきてボーゼンとしてしまうというビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
そんな悩めるあなたに、阪神大震災でのネットを利用したボランティアに始まって、マッキンゼーでのIモードの立ち上げ、リクルート、Google、楽天といった名だたるIT企業で活躍し、現在は海外に居住しながら、日本のネットビジネスの最善線で先端的な評論活動を続けている筆者が、ネットビジネスの今までとこれからをわかりやすく解説してくれるのが、本書『尾原和啓「ネットビジネス進化論」(NHK出版)』です。
【構成と注目ポイント】
構成は
はじめにーネットビジネスの進化の系統樹
Part1 権力:つながりの場所を押さえる
111 検索はなぜ権力の一等地なのか
112 IDと決済を握ったものが覇者となるのはなぜか
113 次の主戦場は信用経済とスモールビジネス至情
Part2 コマース:物や予約をつなげる
211 人から人へ物をつなげる
212 企業から人へ物をつなげる
213 企業から人へサービスをつなげる
Part3 コンテンツ:情報をつなげる
311 人から人へ情報をつなげる
312 情報をつなげてマネタイズする
313 情報をつなげて遊ぶ
Part4 コミュニケーション:人をつなげる
411 つながりがパワーになる
412 個人がパワーをもつ時代
Part5 有限資産をつなげる
511 有限資産をなめらかにつなげる
512 有限資産を小分けにしてみんなで使う
Part6 B to B:仕事をつなげる
611 仕事とデータをつなげる
最終章 これからネットビジネスを始める人へ
あとがきー「横糸」はあなたの経糸を強くするために
となっていて、単体のサービスごとではなく、要素別に最新のビジネス事情を紹介、解説されているのですが嬉しいのは、例えば検索エンジンのところでは、検索する際に利用するアプリで、YahooからGoogleへの利用者の移動がなぜ起きたか、といったことを解説しつつ
ヤフーは「目的型」の検索ではグーグルに後れをとりましたが、「Yahoo! ニュース」によって「非目的型」の覇者となりました。だから、いまでも日本のヤフーは巨人であり続けているのです。
といった「日本型」の特殊性を示したり、オンライン決済のところでは
いまオンライン決済やキャッシュレス決済を通じて起きているのは、取引ごとに分断されていたお金のやりとりが全部つながりつつあるということです。つまり、これまで「点」にすぎなかったお金の流れが「線」になり、どこまでも追跡可能な「リンク」になってきたのです。
といった総論部分を提示しながら、これによって「キャッシュレス決済」大国となった中国での「行動に向けたハードルが極端に下がったこと」というリアル社会への影響を示唆して、今後、日本社会で起きるであろう「変化」を教えてくれるところでしょう。
そして、その先端的な情報に基づく視点は、当然、今までのビジネスの分析やビジネス環境についての考え方へも大きな変容を迫るもので、例えば
では、メルカリのライバルは何でしょうか。それはヤフオク!ではなく、女性誌だというのが僕の見立てです。
といったところや
以前は、有益なアイデアや情報ほど他人には教えず、自分だけで独占する、あるいは、社内では共有しても社外には漏らさないのが当たり前でした。そうやって秘匿された知識やノウハウは、ライバルを出し抜くために使われます。自分だけが知っているということが、生き残りの武器になると思われていたのです。 ところが、インターネットによって世界中がつながると、自分だけが知っているというのは、ただの思い込みにすぎないということが明らかになってきます。
(略)
誰もが情報発信者になれる時代には、もはや情報を抱え込んだり、隠しておいたりしても、すぐに誰かの手によって広まってしまう。つまり、かつてのように情報を独占するメリットが劇的に減ったのです。それならいっそのこと、自分から積極的に情報を発信してしまったほうがいいのではないでしょうか
といったところは、今までのビジネススタイルからは想像もつかなかったところではないでしょうか。
さらには最近流行の「オンラインサロン」についての
機能価値より感情価値が重視される時代には、みんなで一緒に物語をつくっていくバーベキュー型のほうが、ビジネスとしての伸びしろがあるのです。そして、バーベキュー型をたくさん提供できるサロンオーナーには、力が宿ります
であったり、
サブスクは、新しいタイプの課金モデルだと思われているかもしれませんが、じつは、昔からある老舗商売に立ち返ることを意味しています。
(略)
売り切りモデルは 一見 さん(新規顧客)をどう獲得するかが大事ですが、老舗商売では常連さん(既存顧客)をいかにつなぎ止めるかが肝になるわけです。
といった感じで、「新しいもの」の中に、古くから培われてきた価値観や、昔からのビジネス手法が息づいているといったところを気付かせてくれている気がします。
さらに最終章のところでは、こうしたネットビジネス事情を踏まえての、これからネットビジネスを始める時の、注意ポイントが丁寧でアドバイスされているのでおさえておいたほうがいいですね。
【レビュアーから一言】
本書によると
自分たちが安心して過ごせる「居場所(コミュニティ)」には、価値観の合わない年長者やダサイ人に入ってきてほしくありません。そうした人が増えて、居心地が悪くなると、とくに若い人たちは新しいソーシャルに活動場所を移していきます。
ということらしいので、昭和なオジサン・ビジネスパーソンが追い求めるほど、今のネットの現実は遠いところにいってしまいがち。先端のところを噛み砕いて解説してくれている本書あたりで、情報収集とプラットフォーム・ビジネスの基礎を勉強しておかないと、最近のZ世代のビジネスから置いていかれるかもしれないですね。
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