GAFAと国家から自由を勝ち取る方法ー尾原和啓「アルゴリズム・フェアネス」

新型コロナ・ウィルスの感染拡大でリモートの世界が拡大してきているのですが、ネット通販などが増えたけど自分の情報を知らないうちに把握されているようのでは、であるとかGIFAなどのネットワーク企業に操られているのでは、などなど、デジタル社会へと大きく時代と世界が変化していくなかで、不安のほうも拡大している人は多いのではないでしょうか。
今までデジタル化のを推奨する人たちの論調は物理的な便利さや快適性の向上の視点では語られていたのですが、そういう「精神的」「思想的」な不安に対する「答え」についてあえて喋られてこなかったように思います。

そんな状況の中、NTTドコモのiモードの立ち上げを皮切りの多くの企業の「デジタル」に関わり、現在は海外でリモートワークをしながら、日本のデジタル化の方向性についてトピックな論述を展開している筆者が、急激な「デジタル化」「リモート化」の中で、私たちが「自由」を獲得し、それを維持する方法について読み解いたのが本書『尾原和啓「アルゴリズム・フェアネス もっと自由に生きるために、ぼくたちが知ること」(KADOKAWA)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 「アルゴリズム・フェアネス」とは何か
第1章 AIが生み出すワクワクする新世界
第2章 国家を超えるプラットフォームの権力
第3章 「国というアルゴリズム」が選べる時代
 中央集権で「不幸の最小化」を図る中国
 人間中心を根底に置くヨーロッパの自由観
 革命を含んでも自由を求めるアメリカ
 IT立国の最先端を走るエストニア
 それでは日本は何に根差すのか?
第4章 ブロックチェーンと究極のフェアネス
第5章 自由を増やす「ハンマー」を手にしよう

となっていて、序章、第1章、第2章のあたりが、今の「デジタル社会」についても認識、第3章と第4章が、GAFAなどのプラットフォームを支配する企業に対す世界各国の「国家」のスタンス分析、第5章が最近、仮想通貨などで話題になる「ブロックチェーン」の真価、第5章がこうした「デジタル化社会」の中で我々「個人」がどう動くべきかという構造になってます。

そして、本書では、このデジタル社会を動かしている論理を「アルゴリズム」として抽象化し、それに対してどうふるまうか、がキーとなるのでおさえておきましょう。

◇本書は今の「アルゴリズムが支配する世界」をどうとらえているか◇

本書ではこうした「デジタル社会」の到来、アルゴリズムが人々の暮らしを左右する社会について、基本のところは好意的な論調で受け止めています。例えば、東南アジアの「グラブタクシー」の提供する配車アプリが、配車にとどまらず人生設計の手伝いもしてくれるところや中国の「平安保険」のアプリの提供する「生活改善」の効果などがあげられているのですが、一番「おっ」と思うのは、中国の「信用スコア」の導入によって「中国人が親切になった」という現象でしょう。

このあたり、
①一部の誰かが、利益を得るのではなく、全員に公平に利用のチャンスがあること
②AIなどによって何かを強制されるのではなく、使う人間が選択できること
③それによって時間や働き方、収入などのコントロールが自由になること
④その帰結として、全員が未来に展望がもてるようになる
といったことをあげ、デジタル社会の「陽」の側面について言及しています。

しかし、デジタル企業の提供するものによって、我々の生活が確実に便利に、かつ高度化していっているのは間違いないのですが、一方で本書では「アルゴリズム」に支配されるという側面ももっていることも指摘されています。それは

フェイスブックのおかげで、私はそれなでまったく接点のなかった方と何人も知り合いになれました。しかしそれは、フェイスブックに自動的に出会わされたとも表現できます。逆にいえば、本玲出会うべき人がフェイスブックに推奨されないために、出会えていない可能性もあるわけです。
これもある意味で、国家と国民の関係に似ています、私たちはプラットフォームによって出会いの自由を謳歌しているようですが、じつはその権利を保証してもらいために、個人データという”税金”を徴収されているのです。
この権力は、人々の自由度と直結するだけに、まさに国家権力に匹敵するといったよいかもしれません。

という認識で示されているのですが、本書でいう「検索型ポータル」「探索型ぽーたり」「人とつながるためのポータル」というインターネットにある「3つのポータル」がGAFAなどの「アルゴリズム」を提供する企業に独占されている状況は、「国家ー国民」の関係より支配構造が強固になっているのかもしれません。

◇アルゴリズムの支配に対してどうふるまうか◇

こうしたアルゴリズムの支配、プラットフォーム企業の強大化によって一番影響を受けるのは、「国家」でもあるわけで、「国家権力」が今どうふるまおうとしているのかは第3章のところで詳述されています。僕としては自らプラットフォームになろうとしている「中国」とアルゴリズムを飼いならそうとしている「ヨーロッパ」の動きを興味深く読んだのですが、今国際社会でおきているアメリカと中国の対立も、国家の覇権争とみるととともに、プラットフォームの覇権争とみていっても面白うかもしれません。貿易戦争であるとともに、「OSの戦争」でもあるんでしょうか。

で、国家は国家として、問題は我々がどうふるまうか、つきあうかということなのですが筆者は「フェアネス」つまり「公正・公平」ということを基礎に「監視する」ということをあげています。その方法論として

①不満や疑問を言葉にして、企業に直接、または国家やマスコミを使って間接的に訴えかけること
②「#デリート・フェイスブック」のように、そのプラットフォームを離脱すること

を挙げています。国家権力や行政権力への不満表明に比べて穏やかなのは、プラットフォームが複数あって、ユーザーに選択権があるのと、基本的に、GAFAのようなプラットフォーム企業は完全な悪意かに基づいて行動はしない、という「アルゴリズムへの信頼」があるせいでしょうか。

このほか、ビットコインの投機的運用などで悪役イメージのついてしまった「ブロックチェーン」についても、

国家しろ、企業にしろ、そこに権力が集まるから歪みが生まれる。政治家による地元への利益誘導や、株主至上主義の経営、社内の出世競争などが典型例です。ならばそもそも権力が一部に集まらないようにすればよい。つまり、全員がフラットな関係でつながれば、そこには歪みのない事由と公平だけが残るはずです。そうした究極のフェアネスを目指すのが、ブロックチェーンの思想の根本なのです。

と「基本」をおさえた、冷静な議論が展開されているので、原著のほうでご確認を。

【レビュアーからひと言

本書の初版は2020年1月で、まだ世界中がこの「新型コロナ」の大流行のことは想像もしていなかった頃の著述で、本書で提起された問題意識はさらに拡大・深刻化しているように思います。

もちろん、ビフォー・コロナの時に無邪気に戻ろうという動きはあるのですが、個人も自治体も、「アルゴリズムの支配」にどう向き合うかをそれぞれがかんがえていかないといけない状況になっていると思います。この課題に「誰が戦略を考えているのかも不明」な日本に対して筆者は「豊かな縮退をめざす」というアイデアを提示しているのですが、さてあなたはどう考えますか?

Bitly

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