風間教官の「教場」シリーズのビフォー物語ー長岡弘樹「教場0」

警察学校を舞台に、警察官を目指して入校してくる生徒たちが、それぞれの思いや過去を抱えながら、無事卒業したり、退校したりといった様々な人間模様を描いた「教場シリーズ」のビフォー・ストーリーが本書『長岡弘樹「教場0 刑事指導官 風間公親」(小学館文庫)』です。

「教場」「教場Ⅱ」「風間教場」の三作で、殻を割って羽ばたいたり、孵化できなかったりといった警察官の卵たちの姿が描かれていたのですが、今巻は、風間が学校で鬼教官としてその名を轟かすまでの、警察官時代の「教官」活動が描かれます。

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構成と注目ポイント

構成は

第一話 仮面の軌跡
第二話 三枚の画廊の絵
第三話 ブロンズの墓穴
第四話 第四の終章
第五話 指輪のレクイエム
第六話 毒のある骸

となっていて、”鬼教官”風間公親がT県警の県警本部捜査第一課強行犯係の刑事として事件捜査にあたりながら、県警内の警察署から三ヶ月の期間で派遣されてくる経験三ヶ月の刑事を鍛える「教育」と謎ぞきが描かれます。

第一話の「仮面の軌跡」で起きる事件は、大企業の御曹司との結婚話がまとまりそうになっている女性が、浪費による借金を肩代わりしてくれていた交際相手の男性を、パーティーから自宅へ送ってもらうタクシーの車中で刺殺するという事件。二人とも、パーティーの仮装で変装しているため、運転手の目撃情報も不確かで犯人の確定に苦労するのですが、最後に殺された男性の女性へのプレゼントが決め手になりますね。
この第一話で、風間のもとで県北部の警察署からきた男性刑事・瓜原。かれは、新米刑事で見込みのある刑事をOJTする、通称「風間道場」のプレッシャーに潰されそうになっています。彼に対する風間の運転手の聞き取りで加害者のことを「女」といわず「女性」という単語の違いに着目するアドバイスが謎解きに繋がります。

第二話の「三枚の画廊の絵」は、画家の向坂という男が、離婚した妻の託した実の息子が、彼女の再婚相手によって、希望する「絵」の道を閉ざされそうになっていることから、その再婚相手の歯科医を突き飛ばしたはずみで殺害してしまうものです。
向坂は、被害者の身元を隠そうと、指紋や掌紋を削った上でバラバラにし、山中の森の中に遺体を隠すのですが、DNA鑑定に頼らず身元を割り出した風間のやり方に注目です。
今回の研修生となる折本に、向坂に被害者の死体が遺棄されていた山の絵を依頼させるのですが、これは犯人と推理する向坂をゆさぶる手段と考えている折本の考えをはるかに凌駕する風間の知恵で、向坂の犯行の動機も満足させるもので、という展開です。

第三話「ブロンズの墓穴」は、担任教師・諸田伸枝によって息子が登校拒否になってしまったと思いこむ母親・佐柄美幸が諸田を撲殺します。犯行は、学校の退勤途上を狙って殺害し、車のトランクに積んでアリバイ工作をした後、学校のシンボルの銅像の前に争ったような偽装をして放置します。ブロンズ像の本に被害者の血痕や髪の毛がついているので、犯行現場が学校内ではという線で捜査が進みます。
風間から「痛みを感じている場所と、実際に痛みを感じている場所は、別」というヒントをもらった今回の研修生刑事・荒城の推理をどうぞ。

第四話「第四の終章」は売れない俳優の「元木」という男が、彼の劇団仲間である女優・筧麻由佳のアパートで縊死します。彼は麻由佳と隣人の佐久田の目の前で「とんでもないことをしたので、死んで責任をとる」といった自殺するのですが、実はそこには犯人が仕掛けた罠が隠されていて・・、という筋立てです。
風間が今回、新米刑事の早坂すみれにしたアドバイスは「物体同士が接触すると、両方に、かならずその痕跡が残る、という「ロケールの法則」です。風間は、現場で発見者の筧麻由佳と握手した手のひらを「採証シート」に押し付け、それをきちんと保管するのですが、それが謎解きの決め手の証拠となってきますね。

第五話の「指輪のレクイエム」はデザイン事務所の経営者兼デザイナー・仁谷が、認知症となった年上の妻を殺害する話なのですが、妻の死因はフッ化水素ガスによる中毒死で、死んだ時、仁谷は取引先と商談中でアリバイがある、というものです。
読者の前には、仁谷が妻に電話した「冷蔵庫の掃除をしておいてくれ」というメッセージが決めてとなっていることが示されているのですが、具体の方法は・・、というものですね。
フッ化水素ガスを発生させる方法とか、彼が電話したメッセージが消去されていた理由が、殺害された妻が探していた「結婚指輪」を媒介に明らかになっていきます。

第六話の「毒のある骸」は学部長になるのを目の前にした法医学教室の主任教授・椎垣が、検死の際に、持ち込まれた死体の腹部に青酸ガスが発生していることに気づかず助手の宇部をあやうく事故死させかけてしまいます。
「宇部」から不祥事がばれることを恐れた椎垣は宇部の自宅で青酸カリで殺害します。宇部は毒を飲まされた後、家を出、山道を「上った」ところで力尽き倒れていいるところを発見されます。変死死体ということで、検死がされるのですが、検死をする法医学教室の教授・椎垣は自殺と結論づけるのですが、風間は、毒で苦しむ中、わざわざ山を上っていったことから、あるアドバイスを研修生の新米警察官・平優羽子にするのですが・・・、という展開です。

レビュアーからひと言

「教場」シリーズを既読の読者には、第六話で、風間道場の研修生となる新米刑事。平優羽子の名前をみて、どこかで見たような・・と思われる人もあるかと思います。「風間教場」で視力を失っていく風間公親の「助教」を務めていた女性ですね。
風間は刑事当時に彼に恨みを抱く者に、アイスピックで右目を突かれて失明するのですが、その状況が今回の話でわかります。「教場」シリーズの始まりの物語が読めますので、ミステリー「教場」シリーズや木村拓哉さん主演のTVドラマ「教場」のファンは目を通しておいてはいかがでしょうか。

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