警察官見習いを次々退校させる鬼教官「風間公親」誕生=長岡弘樹「新・教場」

警察学校に入校してくる警官見習い生を厳しく教育するとともに、過酷な訓練中に抱いた邪な思惑や犯罪行為を見つけ出して指導し、警察官として成長させていく警察官ミステリ「教場」シリーズの第6弾。「教場0」「教場X」で、主人公の「風間公親」が、自分を捕まえたことを逆恨みした犯罪者から右目を刺されて、第一線の刑事から退き、刑事を育成する刑事指導官となったものの、その犯罪者から再び狙われ始めたため、特例措置として警察学校の教官となったことが明らかになっていたのですが、風間が警察学校へ赴任したての頃のエピソードが描かれるのが本書『長岡弘樹「新・教場」(小学館文庫)』です。

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あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一話 鋼のモデリング
第二話 次代への短艇
第三話 殺意のデスマスク
第四話 隻眼の解剖医
第五話 冥い追跡
第六話 カリギュラの犠牲
エピローグ

となっていて、プロローグのところは、本シリーズの主人公・風間公親が、「千枚通し」と呼ばれる傷害の連続犯・十崎に再び狙われるようになったため、安全を確保するため、本部長の意向で警察学校の教官に赴任しての初日、警察学校の四方田と出会います。ここで、四方田は今巻のサブ・キャストとなる赴任二年目の助教・尾凪を紹介し、その合間に、風間は四方田が学校の庭で見つけたキーホルダー型のホイッスルを花壇に埋めるのですが、この二つのエピソードが今巻中で結構重要になるので覚えておきましょう。

まず第一話の「鋼のモデリング」では「矢代」と「門田」という二人の学生が登場します。「矢代」は入校前に、自殺を図った若い警察官を救助して表彰を受けているという経歴の持ち主で警察官の父の背中を追って警察官になった人物、門田は底抜けに明るい体力バカといった設定です。
二人は、矢代が食事のパセリを残し、さらに親に電話したという嘘を風間に見抜かれて、連帯責任をとらされてシゴキを受けてから仲良くなったのですが、模擬交番での夜間勤務でもコンビを組むこととなります。
この模擬交番勤務では、実弾は込められていないものの実際の拳銃を所持して勤務することとなっているのですが、勤務の当日、拳銃を使って早撃ちの実演をする門田に注意して二人は大喧嘩を始めてしまいます。それはスチールデスクの引き出しが外れ、パイプ式の書類ファイルが交番内に散乱するほどの大暴れになったのですが、その様子を見て、風間は二人がついている「嘘」に気づきます。それは、弾が空であっても拳銃の銃口を人に向けた場合は退校にする、という規則にかかわるものなのですが、風間が退校を命じた人物は二人のうち・・という展開です。
話中にでてくる、矢代は助けた若い警察官の自殺現場からは銃弾が一つ行方不明になっている、という話と、風間が尾凪に語る警察官の同僚に迷惑をかけない拳銃自殺の作法のTipsが謎解きの鍵になってきます。

第二話の「次代への短艇」では、大阪出身で、暴力団担当の刑事を志望している「笠原」が副主人公。彼は尾凪が指導している校内のソフトボール部に所属していて、そのまじめな性格と熱心さから尾凪も目をかけているのですが、ある時、校内の実習で、ガムテープが自分の手につくのを嫌っているそぶりを見せたことに風間が不審を抱きます。それを確かめるため、バービージャンプの特訓を課すのですが、その折に尾凪は彼の手に関するある秘密を目撃します。
それは、生徒の一人で卒業アルバムの撮影を担当している清野が、学生の撮影中に気づいた、笠原はいつも右手の小指を伸ばしている、ということと笠原の将来、暴力団担当の刑事になりたいという警察官志望理由に密接に関連しているもので・・という展開です。
今回は、風間の推理が外れてしまう、このシリーズであまりない筋立てです。

第三話の「殺意のデスマスク」では、ブラジリアン柔術の有段者の「若槻栄斗」が副主人公で、彼は本来は格闘技のプロになりたくて、二年間、様々な大会に出場していたのですが、どこの団体からも声がかからず、父親とおなじように警察官となった、という異色の経歴です。
このため、その強さは半端ないのですが、激高しやすく、我を忘れると相手を絞め殺しそうになるような凶暴性をもっていて「自分の身を守るため必死になりすぎるタイプ」と風間は分析しています。その彼が、交番での実習の際、男が小学生を襲っている現場に遭遇したのですが、岩槻はその男を無言で取り押さえ、締め上げ、頚椎に怪我をするほどの重傷を負わせてしまいます。やり過ぎの感じもあるのですが、この逮捕劇は小学生の命を救った「お手柄」として賞賛されるのですが、風間は彼のある性格を見抜き退校を進めるのですが、その理由は・・という展開です。

このほか、女性警察官の卵に教えた「護身術」がもたらした意外な結果を描く「隻眼の解剖医」、首席争いを競っている男女の警察官の間のストーキング事件を巡って尾凪助教が利用される「冥い追跡」、社会学の研究者志望だった学生と、ガンマニアの学生の間でおきた銃口を相手に向ける、という退校ものの不祥事の真犯人とその意外な犯行理由を描いた「カリギュラの犠牲」が収録されています。

レビュアーの一言

風間公規が、刑事の卵たちを現場で育てる鬼指導官から警察学校の教官に転身したのは、「千枚通し」を使う連続障害犯・十崎に右目を刺され、その後も十崎に狙われていたことが理由であったことが、前作の「教場X」や本巻の冒頭で明らかになっているのですが、その十崎はどうなったのか、を明らかにし、風間が現場に復帰せず、教官を続けている理由も明らかになるのが本巻です。
この巻によって、すべてのミッシングリンクが埋まったことになりそうですね。

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